2020.01.23郷土誌から読み解く地域歴史情報

周囲を一変させ美しい観光地とした朝里ダムの築造とその後

さて、小樽と札幌を結ぶ重要なルートである他、平地の少なく海沿いで水不足に陥りがちな小樽としては重要な水源である為、道路と水源という2つの用途では徐々に開発が進められていたものの、それ以外の部分では明治政府の成立、開拓使の設置から約110年、昭和50年代までほとんど手付かずの沢地であったガッカリ沢ですが、これが現在の姿になるまでの経緯を紹介してゆきましょう。

ガッカリ沢航空写真

昭和30年以降、AVA構想などによって温泉、スキー、ゴルフなどレジャー開発が進んでゆきましたが、その後、やはり水不足や川の氾濫、土砂崩れなどの治水の問題もあって、小樽市の第六次拡張計画によって、とうとうガッカリ沢が朝里ダムに生まれ変わるときが近づいてきます。

ついに昭和54年朝里ダムが着工し、当初の予定では昭和62年までに完成させる予定だったそうですが、予算の問題や工事が難航した都合、竣工に至ったのは平成5年の事でした。

朝里ダム・貯水池平面図

上図の通り、第二次拡張計画で設置された朝里水源地や、戦後、数十年単位で補修を繰り返した道道小樽定山渓線の従来のルートが、朝里ダムに沈むことになってしまいました。

また、この新しいルートでは山側からダムの下との高低差が大きすぎるということで、ぐるっと一周を回りながら高度を調整する朝里ループ橋が計画され、昭和58年に着工し、昭和61年に完成することとなります。

朝里ループ橋 空撮写真

前述の通り、朝里ダムは平成5年に竣工した訳ですが、そのダム湖は本来のガッカリ沢ではなく、オタルナイ湖という名前になってしまいました。

朝里ダム(平成5年)

この名称は市民の一般公募で命名されたそうですが、厳密に『オタルナイ』の意味するところを考えた場合、現在の小樽市と札幌市の境界付近を流れる小樽内川を指しますから、あまり良いネーミングであるとは言えません。
この、小樽内川は流路の変更によって、現在の新川であるとも星置川であるとも言えますが、どちらにせよ銭函・星置周辺という事ですね。

しかし、ダム竣工の翌年の平成6年に一般公開された湖畔園地は桜も多く植樹され、桜や紅葉の名所ともされる観光名所ですから、旧名のガッカリ沢というのでは流石にまずかったのかもしれません。

湖畔園地の桜並木

当初は冬期間通行止めだった道道1号線ですが、平成11年には朝里峠トンネルが開通し、冬期の通行が可能となりました。
現在もカーブの多い細い道路となっていますが、札幌国際スキー場定山渓ダムなどと共に、かつてガッカリ沢であった朝里ダムは観光名所となっています。

朝里ダムの湖畔

朝里ダムの湖畔

湖畔園地でダム湖ならではのおだやかで波のない青い水面と季節折々の桜や紅葉などの木々を眺めるというのもいいでしょう。

朝里ダム

朝里ダムの上部

もちろん、ダムの上を歩くことも出来ます。

他のダムよりも駐車場からダムへの距離が短く、アクセスが良いのが気軽ですね。

朝里ダムの上部

ダム上部から見るオルタナイ湖

人口湖ではあるものの本当に青く美しい風景ですね。

ダム上部から見る朝里ループ橋

オタルナイ湖の反対側には朝里ループ橋の大きな輪が弧を描きます。

最後に、直近の航空写真を見てみましょう。

朝里ダム直近の航空写真

 

こうして上から見ると、オタルナイ湖がかつて存在した朝里貯水池とは比較にならないほど非常に大きな湖であることが分かりますね。

ダム湖というと、よくよくその下に沈んだ集落などが話題となりますが、オタルナイ湖の場合にはそういった悲しい歴史もなく、強いて言えば自然破壊という側面があるかもしれませんが、基本的には平和裏に造成されたダム湖であって、また、独特の形状のループ橋や駐車場からすぐ近くにダムがあることなど、観光地としての魅力は非常に高いものであると言えます。

ガッカリ沢地形図

何せ、明治~大正にかけては、本当に何もない、山に挟まれた沢地だったのですから、人の営みとは凄まじいものですね。

小樽市や札幌市、或いは近郊の自治体にお住まいの方は、お時間があるときにはかつてのガッカリ沢に思いを馳せながら、朝里ダムの観光に出かけてみるのもよいのではないでしょうか。

 

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細井 全

【参考文献】
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第1巻』(旧版)昭和18年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第2巻』(旧版)昭和18年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第3巻』(旧版)昭和19年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第1巻』(新版)昭和33年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第2巻』(新版)昭和36年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第3巻』(新版)昭和56年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第4巻』(新版)昭和56年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第5巻』(新版)昭和56年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第6巻』(新版)昭和56年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第7巻 ⾏政編(上)』(新版)平成5年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第8巻 ⾏政編(中)』(新版)平成6年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第9巻 ⾏政編(下)』(新版)平成7年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第10巻 社会経済編』(新版)平成12年
◇⼩樽市役所『⼩樽市史 第10巻 文化編』(新版)平成12年
◇⼩樽市『未来のために=⼭⽥市政3期12年をふりかえって=』平成24

◇有限会社北海道新聞中販売所『小樽・朝里紀行』平成30年
◇小樽観光大学校『おたる案内人 検定試験公式ガイドブック』平成18年
◇佐藤圭樹『小樽散歩案内』平成23年
◇大日本帝国陸地測量部五万分の一地形図『銭函』明治29年測量、明治42年部分修正
◇国土地理院航空写真各種

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