2021.07.08郷土誌から読み解く地域歴史情報

小樽の隠れ家『忍路』の歴史 ~現代の小樽市忍路~

さて、前回前々回『忍路』という地名が比較的マイナーであると繰り返してしまいましたが、『忍路』という地名で最も有名と思われるのが『忍路環状列石』で、俗に忍路ストーンサークルと呼ばれたりもします。

忍路環状列石

このストーンサークルの存在自体は江戸期から認知されていたようで、明治に入り様々な研究者が考古学的な研究を行なったほか、大正時代には当時の皇太子=のちの昭和天皇が行啓に訪れていたりと、従来から名所であったようですが、昭和36年には正式に国指定史跡となります。

忍路環状列石の案内板

環状列石は縄文時代の集合墓地・祭祀場としての役割を持っていたと考えられています。

昭和時代の忍路環状列石

観光情報などでパワースポットである、という記載を見かけることもありますが、史跡保護の観点から現地に立ち入ることは出来ませんので、現地を訪ねる方は外周のチェーンの外からパワーをもらって下さい。

忍路環状列石の模型

忍路環状列石の詳細図

小樽市総合博物館運河館でも、忍路環状列石の模型や詳細図が展示されており、小樽ではすぐ近くにある地鎮山環状列石や手宮の手宮洞窟と並んで、古代の人々の生活の痕跡を示す史跡として紹介されることが多い場所です。
また、西隣の余市にはフゴッペ遺跡西崎山環状列石などもあり、当時の人々が海沿いに暮らし、漁をして海産物を食して暮らしていたという事が分かります。

 

さて、それでは昭和50年代後半の航空写真を見てゆきましょう。

昭和50年代の忍路の航空写真

前回の写真から大きく発展したであるとか、人口密度が増えたという様子は伺えませんが、この頃にも沖合漁業の整備の為に忍路港の整備は進んでいます。昭和44年昭和45年には忍路漁港の係留施設と改良水域施設の整備が行われ、昭和56年から昭和59年について、特に東側の護岸と防波堤工事が実施されます。

昭和58年の忍路漁港

忍路漁港工事計画

整備された忍路漁港

それまでの防波堤よりも湾に大きく張り出す形で延長され、テトラポッドも敷設されています。
これによって、係留される船はより波の影響を受ける事が少なくなり、また物資の積み下ろしや乗り降りにおいても利便性が向上したとの事です。
最後に、国土地理院が公開する直近の航空写真を見てみましょう。

2007年以降の忍路の航空写真

忍路湾の整備によって、防波堤が伸びていることが分かりますね。

忍路神社の鳥居

ここまで説明してきた通り、産業拠点としての忍路は江戸期~明治初期でピークを迎えますが、一方で隠れ家的な立地や忍路湾の美しい入り江の風景などから別荘地としての人気は他に代えがたいものがあると言えるでしょう。

小樽や蘭島、銭函や石狩のような開けた海もよいものですが、忍路のように周囲とは雰囲気の違う隠れ家のような海もまた素晴らしいものです。

 

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細井 全

【参考文献】
◇塩谷村役場『忍路郡郷土史』昭和32年
◇竹内荘七『忍路郡塩谷村鮏漁場実測図』明治29年
◇須磨正敏『ヲショロ場所をめぐる人々』平成元年
◇小樽市役所『小樽市史 第1巻』(旧版)昭和18年
◇小樽市役所『小樽市史 第2巻』(旧版)昭和18年
◇小樽市役所『小樽市史 第3巻』(旧版)昭和19年
◇小樽市役所『小樽市史 第1巻』(新版)昭和33年
◇小樽市役所『小樽市史 第2巻』(新版)昭和36年
◇小樽市役所『小樽市史 第3巻』(新版)昭和56年
◇小樽市役所『小樽市史 第4巻』(新版)昭和56年
◇小樽市役所『小樽市史 第5巻』(新版)昭和56年
◇小樽市役所『小樽市史 第6巻』(新版)昭和56年
◇小樽市役所『小樽市史 第7巻 行政編(上)』(新版)平成5年
◇小樽市役所『小樽市史 第8巻 行政編(中)』(新版)平成6年
◇小樽市役所『小樽市史 第9巻 行政編(下)』(新版)平成7年
◇小樽市役所『小樽市史 第10巻 社会経済編』(新版)平成12年
◇小樽市役所『小樽市史 第10巻 文化編』(新版)平成12年
◇小樽市『未来のために=山田市政3期12年をふりかえって=』平成24年
◇大日本帝国陸地測量部五万分の一地形図『余市』明治29年測量、明治43年部分修正
◇内務省地理調査所二万五千分の一地形図『小樽西部』昭和28年
◇内務省地理調査所二万五千分の一地形図『余市』昭和33年
◇国土地理院 航空写真各種
◇小樽観光大学校『おたる案内人 検定試験公式ガイドブック』平成18年
◇佐藤圭樹『小樽散歩案内』平成23年
◇永田方正『北海道蝦夷語地名解』明治24年

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