2020.05.20郷土誌から読み解く地域歴史情報
石狩最新のニュータウン『緑苑台』の今と昔 ~歴史編~
さて、前回は石狩のニュータウンである『緑苑台』の現在の姿について、航空写真だけではなく、空撮写真や地上写真を交えて紹介しました。
石狩市内でより以前から開発されて来た『新札幌団地』や『花畔団地』と比較して、『ボンエルフ』と呼ばれる蛇行道路などの街並みや、より札幌市域との距離が近いという特徴があります。
さて、三菱地所と住友不動産が開発をする以前、緑苑台エリアはどのような姿だったのでしょうか。
明治期の緑苑台の姿を見てみましょう。
明治29年測量・明治42年部分修正の大日本帝国陸地測量部発行地形図です。
私の文書の中では頻出の資料ですね。札幌・小樽・函館の三都市を除いては、北海道の多くのエリアで最古のきちんとした測量に基づいた地図です。
あたり一帯は原生林と笹薮であったようで、既に石狩街道は通っており、札幌市側では川の周辺に人家はぽつぽつと見えるものの、緑苑台側に建物は見当たりません。
石狩市と札幌市の間に流れる川は現在『発寒川』ですが、地図上では『茨戸川』と記載されています。この頃はまだ河川の範囲が明確ではなかったようです。
現在は河川改修によって河川が直線化していますが、自治体の境界線は当時の蛇行した川に沿ったままとなっており、川を越境した飛び地が存在してしまっています。
紫色の点線が札幌市と石狩市の境界線です。当時の川筋に沿っていることが分かりますね。
発寒川の北側に札幌市の飛び地が、南側に石狩市の飛び地が存在していますね。
両方の市街が飛び地の周辺まで広がった際には、割譲などの行政手続きを行って直線化するのでしょうが、現在のところ河川敷の原野として利用されておらず混乱が生じていないのでそのままとなっているのでしょう。
一部以前の記事と重複しますが、このエリアの歴史についておさらいしてゆきましょう。
明治4年5月、花畔村が開村し、緑苑台は当時、花畔村に含まれていましたが、前掲の地図の通り、人はまったくと言っていいほど住んでいなかったようです。
明治35年4月1日、花畔村と樽川村が合併して花川村が成立します。また、同時に石狩川河口の10町(かつての中心エリア)と生振村が合併して石狩町になりました。
明治40年4月1日、花川町は石狩町と合併して石狩町となります。
今から100年前、大正7年の大日本帝国陸地測量部地形図です。
河川の名称が『茨戸川』から『発寒川』に改められていますね。
画像中央に『前田農場』との記載がありますが、位置としては現在の緑苑台中央~緑苑台西にあたりますね。
これは加賀藩の士族、前田家が中心となって経営した農場で、現在の手稲区前田の名前の由来でもあります。
明治27年の開業当初はこの場所=茨戸が前田農場茨戸本場であり、明治28年に開設した軽川(≒現在の手稲区)は支場とされていましたが、こちらはたびたび河川の氾濫が発生して経営が上手くいかなかったようで、明治39年には、現在の手稲区前田に本場が移転、大正末期には支場となった茨戸の前田農場は売却されてしまいます。
『農場』とは言いますが地図記号によると一帯は『荒地』となっていますので、開墾はさほど進んでいなかったと考えるべきでしょう。
さて、人が定住していないということは歴史を記録する人も少ないという事で、アッという間に時代は戦後に移ります。
こちらは昭和28年の内務省地理調査所地形図。
農業用水が整備され、地図記号によると辺りは一帯が『乾田』となっています。
乾田とはデジタル大辞泉によると『水はけのぐあいがよく、水を入れないときには乾いて畑の状態となる田』との事ですが、基本的には通常の水田と考えてよいでしょう。
こちらは昭和30年代後期の航空写真。規則的に水田が並んでいますね
こちらは時代が下り昭和50年版の国土地理院地形図です。
また、同時代の航空写真も見てみましょう。
同じく昭和50年代の航空写真です。
札幌市の周辺では石狩街道の両脇に住宅地の開発が進んで行きますが、緑苑台エリアは手付かずのままですね。
おそらくは農家さんだと思いますが、建物がちらほらと見て取れます。
実は昭和47年11月14日、この背景で三菱地所がこの周辺の土地の買い入れを開始していたことが三菱地所の社史に記録されています。面積にして約23.3万坪、現在の緑苑台東の面積は約22.5万坪(道路や公園等の公有地を含む)ですから、大半の土地の取得はこの時点で済んでいたのかもしれません。
こちらは昭和60年代の航空写真です。三菱地所の買収は進んでいるはずですが、開発の気配は感じられません。
そして世はバブル景気、平成元年4月5日には三菱地所が『(仮称)緑苑台ニュータウン』として、開発許可を取得し、平成2年9月13日には起工式が行われます。
当初計画としては、総開発面積171.8ha≒51.99万坪、戸建2110戸、タウンハウス360戸、集合住宅230戸の計2700戸、三菱地所52.6%・住友不動産47.4%となっています。
完成後の分譲パンフレットを見ると、面積は変わりませんが分譲区画数が1013区画となっています。これは土地としての分譲ですから元々の土地所有者への換地や建売用地、事業用地などは含まれていないものと思われますし、そもそも計画は『戸』でパンフレットの記載は『区画』ですので、単位自体が異なるという訳です。
造成工事は順調に進み、平成6年3月1日には町名を『石狩町花畔村紙花畔』を『石狩町緑苑台』へ変更。(石狩市になるのは平成8年のことです。)
同じく平成6年の4月13日に、晴れて『緑苑台ニュータウン』として分譲が開始されます。
平成9年5月1日には『緑苑台パークゴルフ場』が緑苑台中央の紅葉山南公園内にオープン。
平成11年10月27日には札幌市北区屯田地区との間を結ぶ新琴似通に西茨戸橋が開通し、これがイオンの裏を通る形となりました。ちなみに、屯田地区では現在東茨戸・西茨戸・屯田・新川を結んで追分通に接続する都市計画道路として『屯田・茨戸通』が建築中であり、最終的には『札幌北広島環状線』という巨大な環状線となる予定です。
平成15年4月1日には地区内の学校として『石狩市立緑苑台小学校』が開校し、住民のお子さんたちの通学距離がぐっと短くなりました。
平成17年9月23日には、緑苑台中央に前回も紹介した『イオンスーパーセンター石狩緑苑台店』がオープン、買い物の利便が大きく向上します。
これらの開発後、平成20年頃の航空写真がこちらです。
昭和60年代の航空写真とは打って変わって緑苑台東・緑苑台中央の両エリアには20年の間にイオンや小学校、住宅地が一気に造成されています。
『ボンエルフ』となっているシンボルロードの両脇の他には、ちらほらと空地がある程度で、概ね密度間のある市街形成に成功していると言えるのではないでしょうか。
そして、実はイオンの後背に備える南西側の緑地帯、緑苑台西はまだ手付かずの状態となっています。
こちらは地名が『花川東』となっているエリアも含めれば緑苑台東と同程度の面積を有していますから、将来的に開発されてゆくのが楽しみなエリアですね。
緑苑台西には、現在唯一の建物として『緑苑台浄水場』が所在しています。
ニュータウンの開発は、新しい街並みに住まいたいという根強い需要に支えられており、それは好不況の波を何度繰り返そうとも、続いてきました。
このエリアについても相対的には便利な立地であり、現在まとまった大規模な土地も減ってきている状況にありますから、緑苑台の西側エリアの所有者が現在誰であるのか、また将来どのような業者が開発をしてゆくのかも未知数な状態ではありますが、長い目で見て行けば、いずれ開発されてゆくのでしょう。
街並みというものはあっという間に姿を変えてしまうからこそ、その歴史的経緯については記録され、またそのエリアに住まう方々に認識が共有されることこそが重要であると考え、日々記事を作成しています。
当記事は石狩エリアでインターネットに掲載されていない物件情報や、地域ならではの不動産の売却・購⼊・賃貸・管理に関するノウハウを有するイエステーション:北章宅建株式会社のスポンサードコンテンツです。
石狩エリアの不動産に関するご相談はイエステーション⼩樽・余市・手稲・⽯狩の各店舗への依頼をお薦めします。
細井 全
【参考文献】
◇石狩町『石狩町史 上巻』昭和47年
◇石狩町『石狩町史 中巻一』昭和60年
◇石狩町『石狩町史 中巻二』平成3年
◇石狩市『石狩町史 下巻』平成9年
◇石狩市『石狩市年表:石狩市史/資料編1』平成15年
◇石狩市『石狩ファイル』各号
◇厚田村『厚田村史』昭和44年
◇浜益村『浜益村史』昭和55年
◇石狩市HP 石狩市年表
http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/soshiki/hisyokoho/2534.html
◇三菱地所株式会社社史編纂室『丸の内百年のあゆみ : 三菱地所社史』平成5年
◇三菱地所株式会社・住友不動産株式会社『緑苑台ニュータウン』パンフレット 発行年月日不明
◇大日本帝国陸地測量部五万分の一地形図『石狩』明治29年測量、明治42年部分修正
◇大日本帝国陸地測量部五万分の一地形図『札幌』明治29年測量、明治42年部分修正
◇大日本帝国陸地測量部五万分の一地形図『茨戸』大正7年
◇内務省地理調査所二万五千分の一地形図『茨戸』昭和28年
◇国土地理院二万五千分の一地形図『札幌北部』昭和50年
◇国土地理院航空写真各種
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