相続や名義のこと2023.08.22
不動産の共有名義の片方が死亡したらどうなるの? 相続手続きの注意点や売却方法を解説~その1
家を購入する際、親子や夫婦で共有名義にすることがあります。もし片方が死亡すると、亡くなった人の持分はどうなるのでしょう?この場合、そのままもう1人の所有になるわけではなく、通常の不動産と同様に相続のルールに則って扱われます。
相続はどうなるのか、どのような手続きをすれば良いのかなどについて、4回にわけて解説します。
共有名義の片方が死亡した場合の相続の流れ
不動産の共有名義人の片方が亡くなった場合、亡くなった人の相続人が共有名義を相続します。生きている方がそのまま全て引き継げるわけではありませんので、注意が必要です。どのように相続人が決まるのか、流れや手続きについて見ていきましょう。
① 誰が相続人なのか確認する
法定相続人の優先順位は、次のように決められています。
●常に相続人になる…配偶者
●第1順位…被相続人の子ども(子どもが死亡している場合は孫)
●第2順位…被相続人の直系尊属(父母が死亡している場合は祖父母)
●第3順位…被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合はその子ども)
被相続人の配偶者は必ず相続人になり、配偶者以外の人は優先順位の高い順序で相続人になります。第1順位の人がいなければ第2順位の人が、第2順位の人もいなければ第3順位の人が相続人になる、という具合です。
例えば、被相続人に配偶者と子どもが2人いる場合は、配偶者と2人の子どもが相続人。子どもがおらず、直系尊属の中で母が存命であれば、相続人となるのは配偶者と第2順位の母です。
② 相続人を確定する
故人が遺言書を作成していなかった場合は、誰が相続人になるのかを確定させる必要があります(遺言書があるケースについては「その2」の記事を参照)。
相続人を確定するには、故人の出生から死亡時までの連続した戸籍謄本をすべて取得しなければなりません。これは、他に認知した子どもがいないことを証明するためです。戸籍謄本には以前の本籍地が記載されているため、新しい戸籍から順番に辿っていけば出生時まで遡ることができますが、すべて揃えるのに時間がかかることがある点に注意しましょう。
なお、相続の手続きに必要な戸籍謄本には、3種類あります。
・(現在)戸籍謄本
・除籍謄本…戸籍に記載されていた人が、結婚や死亡により除籍したことを示す謄本
・改製原戸籍謄本…1994年の法律改正前に作成された旧様式の戸籍謄本。改製される前に除籍した人や認知した子など、現在戸籍では分からない情報が確認できる
戸籍謄本の請求先は、本籍地のある市区町村の役所です。遠方の場合は、郵送で取り寄せることもできますので、当該市区町村役場のホームページなどで請求方法を確認してください。
相続人の間で遺産分割の合意ができなかった場合、法定相続割合に応じて遺産を分割します。割合は次の通りです。
③法定相続人がいない場合の財産分与について確認する
原則として、亡くなった共有者の持分は法定相続人に受け継がれますが、相続人がいない場合、その持分はどうなるのでしょうか。
内縁の妻などの特別縁故者へ財産分与が行われる
死亡した共有者に法定相続人がいないときは、被相続人と生前に密接な関係にあった「特別縁故者」に、相続財産の分与が行われます。特別縁故者として認められる可能性があるのは、以下のような人です。
・被相続人と生計を同じくしていた人
内縁の妻や被相続人と親子同然の関係で同居していた人です。
・被相続人の療養看護に努めた人
被相続人の生前、身の回りの世話を無報酬で行った人を指します。業務として報酬を得ていた介護士や家政婦などは対象外です。
・その他、被相続人と特別密接な関係にあった人
上記以外でも、例えば特に親しく交流していた友人、生前に被相続人が「死んだら財産を譲りたい」と約束していた相手、など、特別密接な関係にあった人は、特別縁故者になれる可能性があります。
とはいえ、内縁の妻などが自動的に特別縁故者になれる訳ではありません。家庭裁判所に申立を行い、特別縁故者として認められる必要があります。まずは、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所で「相続財産管理人選任の申立」を行ってください。相続財産管理人は、一般的に弁護士や司法書士から選ばれます。
相続財産管理人の選任後は官報公告が出され、相続人の捜索が行われます。捜索の公告から6カ月の間に相続人が現れなければ、「相続人の不存在」が確定します。相続人の不存在が確定したら、3カ月以内に「特別縁故者への財産分与審判の申立」を行い、特別縁故者に該当すると認められれば、遺産を分与してもらうことができます。
特別縁故者もいない場合は、共有持分は共有者に帰属する
亡くなった共有者に法定相続人も特別縁故者もいない場合、共有持分はどうなるのでしょうか。
民法255条では以下のように定めています。
「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」
共有者の一人が亡くなり相続人がいなければ、共有持分は生きているもう1人の共有者のものになる、という規定です。
しかし民法の別の条項(958条の3)には、相続人の不存在が確定し、かつ特別縁故者と認められた場合は、相続財産を与えることができる、という定めもあります。生きている共有者と特別縁故者、どちらが優先されるのかについては、最高裁の判例によって「特別縁故者が優先される」とされています。
共有者への帰属には、「相続財産管理人選任の申立」が必要です。
家庭裁判所と相続財産管理人は、他の相続人や債権者、受遺者(遺言により財産を受け取る人)、特別縁故者といった利害関係人がいないかを調査し、すべての確認・清算が終わった後に共有持分が共有者へ帰属されます。この調査や手続きには、通常1年程度時間を要します。
次回も、共有名義の片方が死亡した場合の相続の流れについて引き続き解説します。