不動産売却のコツ2021.10.15
土地と建物の名義が違う不動産の売却方法・手順を徹底解説〜その2
建物の名義は自分でも土地は親名義など、土地と建物で名義人が異なるケースは意外に多いものです。たとえ名義が違っても売却は可能で、それには「土地または建物を単独で売却する」「名義を1人に統一して売却する」「名義が違うまま同時に売却する」という3つの方法があることを、前回のコラムで紹介しました。
この3つの中では、「名義を1人に統一して売却する」のが最も一般的でスムーズですが、なかには事情があって名義変更や売却が難しい、というケースもあります。今回は、こうした事情を抱える物件の売却方法についての対処法を解説します。
名義変更や売却が難しい事情がある場合の対処法
土地と建物の名義が違う不動産を売却したくても、特殊な事情が障壁となっている場合があります。具体例とともに、売却を実現するための対処法を見ていきましょう。
ケース1:離婚による財産分与のための売却
不動産購入時、ペアローンを組んで共有名義にしている夫婦は増えてきていますが、残債がある状態で離婚となると手続きは複雑です。
財産分与のため共有名義の不動産を売却するには、名義を揃えておくことが重要です。離婚による売却ですから、立ち会いや打ち合わせで何度も顔を合わせるのは避けたいはず。売却活動を前に進めるためにも、まずは共有名義を解消する必要があるのです。
とはいえ、名義を揃えるためには、相手が所有する不動産を買い取らなければなりません。そのための資金が必要なのはもちろん、住宅ローンが残っている場合は、相手方のローンの完済も必要です。
名義変更するには、住宅ローンを借り入れている金融機関の承諾が不可欠。自己資金が足りないからといって、金融機関に無断で名義変更してしまうと、残債の一括返済を求められる可能性があります。
相手方の不動産を買い取る資金が無い場合は、金融機関に「財産分与のための一時的な名義変更であること」を、事前に説明して理解を得るしかありません。ただし、必ずしも認められるわけではないことも、理解しておきましょう。
ケース2:名義人が認知症で名義変更できない
親の土地に子が家を建てていて、親が認知症になった、というケースはどうでしょう。この場合、たとえ親子であっても、親名義の土地を勝手に自分の名義にしたり、売却することはできません。
ただし、認知症ではなく病気療養のための入院で、かつ親に意思決定能力があれば、名義変更や売却の手続きが可能です。委任状を作成してもらえば、「親の代理人」として手続きを進めることができます。
重要なポイントは、「意思決定能力」があるかどうかです。「意思決定能力がない」と診断されるほど認知症が進行していれば、代理人は立てられません。事実を隠して手続きしたことが発覚すれば、不動産売買契約は無効になります。
〈後見人を選定する〉
不動産の名義人が認知症になった場合は、「成年後見制度」を活用することで売却が可能です。成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が不十分な場合に、本人が不利益を被らないよう保護・支援する制度です。
成年後見の申立てができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族などです。申立てをすると、家庭裁判所で後見人の審理が行われ、およそ1〜2カ月で審判が下り、後見人が決定されます。後見人には、親族が選ばれるとは限りません。認知症などを理由に申立てした場合、近年では、むしろ法律や福祉の専門家といった第三者が選ばれるケースが増えています。
確実に親族が成年後見人となるためには、任意後見制度を利用する必要があります。ただし、任意後見制度が使えるのは、本人の判断能力に問題がない場合です。任意後見契約公正証書を作成して契約を結んでおけば、本人の判断能力が低下した段階で家庭裁判所に申立てることで、あらかじめ本人が選んだ人が後見人に選ばれます。
〈売却が認められない場合もある〉
家庭裁判所から選任された成年後見人が、本人(成年被後見人)の居住用不動産を売却するには、家庭裁判所に許可をもらう必要があります。売却の許可が下りるのは、「本人にとってその不動産を売る必要性がある」と判断された場合だけです。
例えば介護施設に入るための費用や生活費を捻出するためや、今後自宅に戻る予定がなく、固定資産税などが無駄に発生しているなど、売却が「本人の利益になる」という相応の理由が必要です。成年後見人や周囲の親族の借金返済に充てるといった理由では、許可を得ることはできません。
このように、土地と建物で名義が違う場合は、例えば土地の名義人である親など、もう一方の不動産所有者の健康状態に留意することも必要です。認知症の兆候が見られたら、所有する不動産をどうしたいのか意思確認をできるだけ早めに行い、任意後見制度などを活用して準備を進めましょう。
ケース3:名義人と連絡が取れない
土地と建物の名義人同士で連絡が取れるなら、先に紹介した方法で売却を進めることができますが、連絡がつかない場合もあります。例えば、親名義の土地に子が家を建てた後、土地の相続が発生し、遺産分割協議もされないまま放置されているようなケースです。
〈遺産分割は相続人全員の合意が必要〉
相続人が複数いると、その土地は共有名義になります。それでもすべての相続人と連絡がつけば、遺産分割協議で土地の名義人を決めることができますが、長期間音信不通の人がいると一筋縄ではいきません。さらに、相続人が亡くなっていると、代襲相続人が相続が発生したことすら認識しておらず、所在不明になっていることもあるでしょう。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。「連絡が取れない」という理由だけで、その相続人を除外して協議を進めることはできません。大変ですが、まずは所在不明者を探し出すことが先決です。
〈不在者財産管理人の選任を申立てする〉
戸籍の附票を取得するなど、さまざまな手を尽くしても相続人が見つからない場合は、家庭裁判所に申立てをして不在者財産管理人を選任してもらい、遺産分割協議を行うことになります。
不在者財産管理人とは、その名の通り、行方不明になっている人(不在者)の財産を適切に管理する人のこと。財産管理人は,民法103条に定められた財産を保存する権限を持っています。しかし、遺産分割協議をしたり不在者の財産を処分したりする行為は、財産管理人の権限を超えているため、別に家庭裁判所の許可が必要となります。
こうした手順を踏んでから遺産分割協議を行い、名義を自分に揃えることに同意を得るか、または売却することに同意をしてもらいましょう。
次回は、土地と建物の名義が違う不動産を売却するには、どのような手順で進めればいいのか解説します。