税金のこと2021.03.23

不動産の「譲渡」「贈与」の違いと手続き・税金の注意点〜その3

※コラム内容は掲載当時の最新情報となり、現在改正されている場合があります

不動産を他者に譲る場合は、「譲渡」「贈与」「相続」のどの方法を選択すべきなのでしょうか。前回までは3つの方法それぞれの特徴や、納める税金の種類や税額の違いについて解説しました。

本テーマ3回目は、不動産の名義変更で想定外の税金がかかるケースがあることや、知っておきたい節税対策の知識を紹介していきます。不動産の名義変更が必要な人や予定がある人は、この記事で注意すべきポイントをしっかり押さえておきましょう。

要注意。不動産の名義変更で「贈与税」が発生するケース

不動産を有償で売却、すなわち「譲渡」したにも関わらず、相手に贈与税が課せられる場合があります。売却したのに、なぜ贈与税の対象となるのか解説します。

「みなし贈与」に当てはまるケース

親子や親族間の不動産売買では、できるだけ安く売ってあげたいという心理が働き、かなり低い価格で取引するケースがあります。しかし相場よりも著しく低い価格で売却すると、「贈与」とみなされて、贈与税の対象になる場合があります。

例えば、5,000万円の市場価値がある不動産を親から子へ100万円で売却した場合は、子は4,900万円分得したことになります。この4,900万円が「みなし贈与」となり、贈与税の対象になります。

贈与税を課税されないために、親族間で契約を締結して売買した形を取っても、適正価格で売買しない限りは贈与税が発生してしまうので注意が必要です。

「借金の免除」を受けたケース

市場価値と同等の金額で親族に売却し、売主に利益があれば、譲渡額に応じて「不動産譲渡所得税」が課税されます。しかし、現実に支払った痕跡がないと、税務署から「架空の売買」「債務を免除された取引」とみなされて贈与と判断され、不動産購入者に贈与税が課される可能性があります。

通常、売買すれば銀行振込などの記録が残りますし、売買のための資金をどう捻出したのか根拠もあるはずです。住宅ローン融資を受けて購入したのであれば、売買実績の確かな裏付けになります。

「実質タダ」で不動産を渡すケース

不動産を譲る際に金銭の授受が一切ない、つまりタダで譲って不動産の名義変更が行われると、新たな土地の所有者に贈与税がかかります。

親族間であれば、両者の合意だけで自由に不動産の名義を変更することができます。しかし不動産を取得した人は、必ず不動産取得税を納めなければなりません。税務署は、法務局から定期的に登記情報を入手しており、税金がきちんと納められているかどうかチェックしています。もし税金の未納や、極端に低い額が納付されている場合は、不動産所有者に対して税務署から「お尋ね」という文書が送られてきます。

「お尋ね」では、次のような質問事項が記載されています。

・不動産の購入(取得)価格
・その支払い方法
・購入資金の調達方法(手段)

特に重要なのは、購入資金の調達方法です。本人の所得に比べて購入した不動産が高額であるなど、回答に整合性が取れていない場合は、不動産の名義と購入資金の出どころが異なることが疑われ、事実上無償で不動産を譲り受けたとみなされて贈与税の課税対象となります。状況によっては、延滞税などのペナルティが加えられることもあります。

税務署は、贈与税や相続税の課税漏れに目を光らせています。身内間の名義変更だから大目にみる、などといった対応は一切ありませんので、十分に留意すべきです。

「扶養義務以上」の援助を受けたケース

民法では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある(877条1項)」と定められています。このため、年間110万円の贈与税の基礎控除とは別に、扶養義務の範囲内と認められる財産援助であれば贈与税は非課税です。つまり、生活費や教育費など日常生活に必要な範囲であれば、課税されることはありません。

しかし、さすがに不動産のプレゼントは「生活費や教育費に充てるために通常必要と認められる」範囲を超えているため、贈与税の課税対象になります。

不動産の名義変更で節税する方法とは

このように不動産の名義変更は、何らかの形で課税対象になります。しかし、譲渡や相続には控除制度があり、これを活用することで大幅な節税ができることがあります。どのような方法があるのか紹介します。

①贈与額を年間110万円以内にする

高額な不動産の贈与は、贈与税の負担も大きくなります。そこで、直接不動産を贈与するのではなく、まずは第三者に売却し、得た現金を年間110万円ずつ生前贈与する方法があります。暦年贈与における非課税枠を利用すれば贈与税は発生しません。

ただし、現金で贈与する場合は、銀行振込などの送金記録が残るようにしたり贈与契約書を作成し、確実に110万円以内で贈与したことを証明できるようにしておきましょう。

ここで注意したいのは、必ずしも「暦年贈与」とみなされないケースがあること。例えば最終的に2,200万円を贈与するために、毎年110万円を20年に渡って贈与した場合は、「2,200万円の贈与を分割した」というだけなので「連年贈与」とみなされ、契約(約束)をした年、あるいは最初の履行があった年にまとめて贈与税が課税されることになります。

税務署に連年贈与とみなされないためには、毎年違う時期に、違う金額を贈与するといった工夫が必要です。もともと約束したものではないその年単発の贈与であれば、意図的に分割したと誤解されずに済みます。

また、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産がある時には、その時は暦年贈与として非課税であっても、遡って相続財産に加算されるため注意が必要です。

②「相続時精算課税制度」を利用する

60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ生前贈与する場合に活用できるのが「相続時精算課税制度」です。これは、2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、2,500万円を超えた分の税率は一律20%の贈与税がかかるという制度です。

その後、贈与者が亡くなった時は贈与した財産が相続財産として加算され、改めて相続税を計算します。相続税額からすでに支払った贈与税額を差し引いて、残りの金額を相続税として納付すればよいのです。つまり、贈与時には贈与税の負担を見送る分、相続時に相続税として納めてもらう、という仕組みです。

また、「相続時精算課税制度」と暦年贈与は、どちらか一方しか適用できません。暦年贈与から「相続時精算課税制度」への切り替えはできますが、「相続時精算課税制度」を選択すると、それ以降暦年贈与はできませんので、制度を活用する際は、慎重に見極めましょう。

③「夫婦の間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除」を利用する

「夫婦の間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除」は、婚姻期間20年以上の夫婦が一定の要件を満たすと受けられる控除です。居住用の不動産を贈与した場合、基礎控除110万円の他に、最高2,000万円までの配偶者控除が受けられます。

ただし、この特例を受けられるのは夫婦1組につき一生に一度限りです。

家とローンのバランスのイメージ

まとめ

不動産を他者に譲る方法は、大きく分けて「譲渡」「贈与」「相続」の3パターンがあり、このうち不動産の所有者が生前に選択できるのが、譲渡と贈与です。

親子間で不動産を承継するとなると、できるだけ無償で渡したいと考えるのが親心。しかし贈与税は負担が大きいため、有償で譲る「譲渡」を選択する人は少なくありません。

譲渡は売買による現金のやりとりが発生しますから、買主となる子ども自身が資金を持ち合わせているか、住宅ローンの融資を受けることになります。一方で、親が手にした現金はやがて相続財産となりますから、相続人が複数いる場合、家を譲り受けた人だけ負担が大きいという事態にも陥りかねません。

ですから親子間の不動産譲渡では、資金を負担して家を譲り受けた子どもへの配慮も必要です。自分が亡くなった後を法定相続に委ねるのではなく、遺産配分を指定した遺言書を残しておく。または、暦年贈与で不動産購入資金を少しずつ子どもに還元するといった工夫でも良いでしょう。

税金も控除制度も様々な要件があるため、よく分からず選ぶと損をしてしまう可能性があります。また、相続・贈与された側が土地は必要ないというケースもあるでしょう。
所有する不動産の扱いにお困りのことがあれば、北章宅建へお電話ください。売却、相続など、どんなご相談にもお応えします。

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著者
不動産の「譲渡」「贈与」の違いと手続き・税金の注意点〜その3

札幌手稲店 野口 祥子

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