相続や名義のこと2022.05.10
親の借金を相続せず実家を守る方法はある?〜前編
亡くなった親に多額の借金があった場合、相続すると、実家だけでなく負の遺産である借金まで、まとめて受け継ぐことになります。しかし相続放棄をすると、借金返済の責任は無くなりますが、同時に大切な実家も失います。
借金は相続したくないけれど、思い出の詰まった実家は守りたいという時、何か打つ手はあるのでしょうか。借金を相続せずに実家を取得する方法について、2回に分けて解説します。
相続放棄すると債務を負わずに済むが、家も引き継げない
人が亡くなると、相続が発生します。亡くなった人を「被相続人」といい、その人が所有していた財産を引き継ぐ特定の人を「相続人」といいます。相続では、被相続人のすべての権利や義務を引き継ぐため、もし被相続人に借金が残されていたら、相続人が借金返済の義務を負うことになります。
相続人が複数いる場合、プラスの財産については遺産分割協議で合意すれば、法定相続分とは異なる割合で分割することも可能です。しかし借金については、法定相続分に従って相続人全員が借金を引き継ぐ事になります。なぜなら、相続人の合意で誰か1人が債務をすべて負ったとしても、それは相続人同士での約束に過ぎず、債権者に対しては効力がないからです。
借金を相続を免れるための手段として「相続放棄」があります。相続放棄をした人は、「はじめから相続人ではなかった」とみなされるため、借金を相続する必要はなくなりますが、資産の相続もすべて諦めなければなりません。
相続放棄すると相続権が他の相続人に移るため、同じ相続人の相続分が増えたり、繰り上がりで別の人が相続人になったりします。そのため借金がある場合は、自分一人で勝手に相続放棄すると、他の相続人とトラブルになる可能性があります。相続放棄するかどうかは慎重な判断が必要です。
また、相続放棄をしてしまうと、原則として撤回できません。借金があるからと慌てて相続放棄した後に、実は借金返済が賄えるだけ資産があったとわかっても、時すでに遅し。後悔しないためにも、相続財産をきちんと調べてから判断しましょう。
親が亡くなって家と借金を残し、相続人全員が相続放棄した場合はどうなるのでしょうか。
借金は相続しなくて済みますが、家は最終的に国のものになります。相続を放棄するには、自分が相続人になったと知ってから3カ月以内に家庭裁判所に必要書類を提出し、受理されなければなりません。相続放棄できる期間が短い点に注意が必要です。
限定承認して家を残す方法
相続の対応方法は3種類あります。1つは先に挙げた「相続放棄」で、ほかに「単純承認」と「限定承認」があります。
「単純承認」は、被相続人のすべての財産を債務も含めすべて受け継ぐことです。これに対して「限定承認」は、「プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続すること」です。被相続人のプラスの財産から借金を返済するので、相続人は債務の弁済に自分の財産を使う必要はありません。
限定承認も、相続人になったことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所に申し出る必要があります。
ただし限定承認は、相続人が複数いる場合は全員の合意が必要なほか、手続きが非常に複雑で長期間かかります。個人では難しいため、司法書士や弁護士に手続きを依頼するのが現実的。専門家へ報酬が発生することになるでしょう。
また、限定承認をした場合には、税制上は被相続人から相続人に対して時価で財産を売却したとみなすと定められており、みなし譲渡によって含み益が発生した場合には「みなし譲渡所得税」がかかります。例えば、被相続人が3,000万円で取得した土地が、相続時に4,000万円に値上がりしていたとすると、差額の1,000万円に対してみなし譲渡所得税が発生します。場合によっては税理士を交えた方が良いこともあります。
この方法のメリットは、親の残した借金が多額であっても、相続する債務は家の資産価値の範囲内で済む点です。限定承認が認められた後は、相続した家などの資産を売却して借金を返済しますが、足りない分を自分の財産で返済する必要はありません。
相続人の先買権を行使する
限定承認を行った場合、プラスの財産は債権者への弁済に充てる原資をつくるために、原則として裁判所を通しての競売によって売却しなければなりません。
それだと結局、家を手放すことになるのでは?と思うかもしれませんが、相続人は希望する相続財産を優先的に買い取ることができる「先買権(さきがいけん)」という権利を持っています。その権利を行使して、遺産価値を支払うことで、特定の相続財産を取得することができるのです。
相続財産の対象となる不動産も競売にかけられますが、家庭裁判所に選任された鑑定人の定める金額を支払うことができれば、ほかの人よりも優先してその不動産を購入できます。つまり、不動産を取得するための資金は必要になりますが、先買権を行使することで、実家を手元に残すことが可能というわけです。
次回は、親の借金を相続せずに実家を残すその他の手段として、遺言や生前贈与、リースバックを利用する方法について解説します。