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不動産に関する手続き2021.05.13
不動産売却手続きは代理人に依頼できる?委任の手続き、注意点を解説〜その1
不動産の売却は高額の取引になるため、原則として契約者本人の立ち会いが必要です。しかし、売却したい不動産が遠方にある、仕事や健康上の理由で時間の都合がつかないといった理由から、売却の手続きが自分でできないというケースがあります。
このような場合は、代理人を立てて売却の手続きを進めることが可能です。では、代理人に不動産売却を進めてもらうには、どのような手続きが必要なのでしょうか。注意点と併せて解説していきましょう。
不動産売却を代理人に委任するのはどんなケース?
不動産売買は高額取引のため、原則として不動産の所有者である売主と買主、それぞれ本人の立ち会いが必要です。しかしさまざまな事情から、所有者本人が立ち会いできないこともあります。やむを得ない事情があって契約日に立ち会えないのであれば、代理人に委任することで、不動産売却を任せることができます。
代理人に不動産の売買契約を委任できる「やむを得ない事情」には、次のようなケースがあります。
売却したい物件が遠方にある
売却しようとする物件が、相続した田舎の実家など、居住地から遠く離れているために立ち合いや手続きが困難な場合は、代理人を選任して委任すれば、売却手続きを進めることができます。
売主が海外在住である、高齢者のために移動が難しいといった場合も、委任が可能です。
契約のための時間が取れない
不動産の契約が完了するまでには、重要事項説明や書類の詳細確認などで、相当の時間や労力がかかります。仕事が多忙で時間が空けられない場合や入院や通院のために時間を作ることが難しい場合は、代理人を選任し、売却手続きを進めることができます。
売却したい物件の所有者が複数いる
兄弟姉妹で相続して共有名義になっている場合など、売却する不動産の所有者が複数人いるケースがあります。売却時には所有者全員の立ち会いと同意が必要ですが、複数人いると、全員が立ち会いできる日程を調整するのはなかなか難しいもの。このようなケースでは、所有者から委任された代理人が契約を行うことが可能です。
書類の取得も代理人に委任することが可能
不動産を売却する際には、主に次の書類を揃える必要があります。
・印鑑証明書
・住民票
・売主本人を証明する書類
・登記済権利証
・固定資産評価証明書
この中には「固定資産評価証明書」のように、原則として本人しか取得できない書類もあります。事情があって本人が役所に出向くことができない場合は、これらの書類の取得も代理人に委任することができます。
代理権委任状に記載すべき内容とは
不動産売却を代理人に依頼する場合は代理権委任状が必要で、委任状の書式は自由です。委任状のフォーマットを保有している司法書士や不動産会社も多いのですが、基本的には依頼者本人が作成すべきものです。
委任状は、代理人が本人に代わって不動産売買契約に関する代理権があることを証明すると同時に、代理人に付与する権限の範囲を明確にするものでもあります。
代理人が行う法律行為は、本人が行ったものと同等の効力を持ちます。そのため委任内容が曖昧だと、権限外の事項について代理人が勝手に判断を下してしまい、大きな損失を被ることにもなりかねません。代理人の権限の範囲を明確にすることは、自身の財産を守ることでもあるのです。
では、委任状には具体的に何を記載すれば良いのでしょうか。
ポイント①何の委任であるかを明確にする
委任状の冒頭で、不動産の売却に関する委任であることを明白にします。例えば、次のような主旨の文章です。
『委任者〇〇〇〇(甲)は、受任者△△△△(乙)に対して、甲所有の下記の不動産を下記の条件で売却することを委任し、その代理権を付与する。』
ポイント②物件情報を記載する
誰が所有するどの物件を売却するのか、対象になる不動産の情報を明確に記載します。
・対象となる土地・建物の情報…所在地、地番、面積、建物の構造など
・物件所有者の住所氏名
ポイント③売却の条件
それまでの商談で決めた、次のような売却条件を記載します。
・売買価格
・手付金の額
・引き渡し予定日
・違約金の額
・公租公課の分担起算日…固定資産税を分担する期日
・金銭の取り扱い…代理人が売却代金を受け取る場合の、金銭の振込先に関する取り決め事項
・所有権移転登記申請手続き…金銭受領と同時に買主への所有権移転登記を行うために、あらかじめ〇〇司法書士に関係書類を預けておく、といった旨の記載
・引渡し要領…所有権移転と同時に、買主に引き渡しを行うために、あらかじめ売主から鍵と関係図書を受任者が預かる旨を記載
ポイント④委任状に取り決めの無い事項の扱い
不動産のような額の大きな取引では、どんなに信頼できる代理人であっても、無制限に委任の権限を与えることには不安が残ります。そのため委任状に取り決めの記載がない事項については、受任者(代理人)と委任者(売主本人)がその都度協議する旨を記載します。これにより、代理人の独断による判断を避けることができます。
ポイント⑤有効期限
必ず有効期限を記載します。これを決めておかないと、取引が成立しなかった後でも受任者が悪用できてしまいます。一般的には3カ月を期限とし、必要に応じて、互いの合意によって更新できるよう定めておくといいでしょう。
ポイント⑥委任者と受任者の住所氏名
委任状の文末に、委任者と受任者、それぞれの住所氏名を署名し、実印を押印します。
ポイント⑦その他の必要書類
売却手続きを代理人に委任する場合は、次のような書類などの準備も必要です。
・実印
・委任者の印鑑証明書・住民票…3カ月以内に発行されたもの
・代理人の印鑑証明書・住民票…3カ月以内に発行されたもの
・代理人の本人確認証
法定代理人とは?
ここで解説してきた、不動産所有者本人の意志による委任を「任意委任」といいます。これに対し、法律の規定に基づいて代理人を定める「法定委任」もあります。
法定委任では次の立場の人が法定代理人になります。
・親権者…未成年者の親権を有する者。一般的には両親
・未成年後見人…未成年者で親権者がいない場合の代理人
・成年後見人…認知症等により判断能力が低下した人の後見人
不動産所有者である売主が未成年者や認知症患者の場合、任意委任は認められません。それは、所有者本人に判断能力がないとみなされるためです。本人の子どもや家族が契約に立ち会ったとしても売却契約は認められませんので、すべての手続きは法定代理人に委ねることになります。
まとめ
マンションや戸建て、土地など不動産の売却は、所有者本人が行うのが原則。共有持分となっている不動産の場合も、所有者全員の立ち会いが必要です。しかしさまざまな事情から、本人の立ち会いが困難なケースがあるため、その場合は代理人に委任することで、手続きを進めてもらうことができます。
ただし、不動産は高額な取引である上、委任された代理人は所有者本人と同等の法的効力を持つため、代理権委任状には曖昧な記載をしないよう、細心の注意が必要です。
次回は、不動産売却を代理人に委任する場合の注意点を具体的に解説します。