不動産売却のコツ2022.11.29
成年後見制度を活用。認知症の親の不動産を売却する方法とは~その3
もし親が認知症になったら実家を売却することはできるのだろうかと、不安に思っている人は少なくないでしょう。不動産の売却は法律行為のため、所有者が認知症で判断能力がないとなれば、たとえ子どもでも勝手に売却することはできません。
このような場合、「成年後見制度」を活用すれば不動産の売却が可能です。成年後見制度は、認知症などの理由で判断能力が不十分な人の法律行為を、家庭裁判所によって選任された成年後見人がサポートする制度。法的に認められた後見人が、本人に代わって財産管理などを行うことができます。
前回までの記事では、判断能力があるうちに将来サポートしてもらう後見人を本人が選ぶ「任意後見制度」と、判断能力が衰えてから家庭裁判所によって後見人などが選ばれる「法定後見制度」、それぞれの手続きの流れを紹介しました。最終回の今回は、選任された成年後見人が、実際に不動産を売却する方法について解説します。
成年後見人が不動産を売却する方法とは
成年後見人は、本人の代わりに不動産を売却する権限も与えられています。必要な手続きは、不動産が居住用か非居住用かによって異なります。
居住用不動産の売却方法
成年後見制度の目的は、判断能力が不十分な本人を法的に保護することです。本人の財産を処分するには、本人の意思を尊重し、その心身や生活の状態に十分配慮することが求められています。これまで住んでいた自宅を売却するとなれば、なおさら慎重な判断が必要です。
そのため民法では、成年後見人が本人の居住用不動産を売却する際は、裁判所の許可を得る必要があると定めています(民法第859条の3)。もし許可を得ずに売却した場合、売買契約は無効となり、成年後見人の義務違反と判断されて解任される可能性もあります。
また、成年後見監督人が選任されている場合は、裁判所だけでなく成年後見監督人の許可も得なければなりません。成年後見監督人は、後見人が本人の利益になる行為をきちんと行うかを監督する立場だからです。ただし、任意後見契約書の内容に「同意は不要」との規定があれば、その限りではありません。
居住用不動産売却の申請方法
居住用不動産を売却する許可を得るためには、以下の書類が必要です。準備が整ったら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
・申立書
・不動産の全部事項証明書
・不動案売買契約書の案
・処分する不動産の評価証明書
・不動産業者作成の査定書
・本人または成年後見人(補佐人、補助人)の住民票に変更があった場合、変更があった者の住民票写しまたは戸籍付票
・成年後見監督人(補佐監督人、補助監督人)がいる場合、その意見書
事案により必要書類が異なる場合があるため、事前に裁判所で確認しておきましょう。
居住用不動産の売却が許可されるか否かの判断要素
売却の許可が得られるかどうかは、様々な要素が考慮されます。一般的には次のような要素が重要です。
①売却の必要性…本人の財産状況から考える売却の妥当性
②本人の生活・看護の状況や本人の意向…入所や入院の状況、帰宅の見込み、帰宅となった場合の帰宅先の確保状況
③売却条件…売却条件の妥当性
④売却後の代金の保管…売却代金が本人のために使われるように入金や保管されるか
⑤親族の処分に対する態度…推定相続人の同意の有無
判断のポイントは、「売却が本人の利益になるか」という点です。「親の介護施設入所に必要な大きな費用を捻出するため」など、確かな理由があると判断された場合に限り、売却許可が下ります。
非居住用不動産の売却方法
居住用とは異なり、非居住用であれば家庭裁判所に売却の許可を得る必要はありません。ただし、本人の生活費の確保や医療費を捻出するためなど、「本人の保護や利益につながる正当な売却理由がある」ことが前提です。
また、売却価格にも注意が必要です。相場とかけ離れた安い金額の場合、家庭裁判所に「本人の利益にならない」と判断される可能性があるためです。非居住用不動産の売却は裁判所の許可は不要となってはいますが、事前に家庭裁判所に確認しておく方がよいでしょう。
居住用か非居住用かを判別する方法
売却予定の不動産は居住用か否か、単純に判別できないケースもあります。民法上、居住用不動産は「(本人の)居住の用に供する建物又はその敷地」(民法第859条の3)と定義されており、必ずしも現時点で住んでいる不動産とは限らないからです。
高齢者であれば、一時的な介護や入院のため今は住んでいないけれど、いずれ戻ってくるという場合もあるでしょう。そのため「居住用」は、現在居住している不動産だけでなく、過去に生活していた不動産や、将来的に住む可能性がある不動産も該当すると判断されるのです。
「現時点で住んでいない=非居住用」とは限りませんので、売却にあたっては慎重に判断するようにしましょう。
まとめ
認知症で判断力が低下した親の不動産でも、成年後見制度を活用すれば、後見人が代理で売却を行うことが可能です。
認知症が軽度の場合は「補助人」や「保佐人」が選任され、不動産の売却がそこまで難しくないケースもあります。ただし法定後見制度では、血縁者が成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)になるとは限らないため、注意が必要です。
本人の判断能力が衰えた時にどうするかという問題は、現実的には症状が進行してから慌てることが多いものです。今は元気だとしても、いざという時に困らないよう、将来を見据えて家族でよく話し合って備えておきましょう。
北章宅建では、不動産に関するさまざまなご相談に無料で応じています。認知症になった親の不動産売却でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。