不動産売却のコツ2022.11.29
成年後見制度を活用。 認知症の親の不動産を売却する方法とは~その2
親が認知症になってしまったら、施設への入所や介護の費用を捻出するために実家の売却を検討する人もいるでしょう。しかし、認知症などにより本人の判断能力が不十分だと判断されると、本人はもちろん、たとえ子どもであっても勝手に売却することはできません。
しかし「成年後見制度」を利用すれば、親の不動産を売却することが可能です。この制度には、本人がまだ元気なうちに自ら後見人を選ぶ「任意後見制度」と、認知症などにより判断能力が衰えた時、家庭裁判所によって後見人などが選ばれる「法定後見制度」の2種類があります。制度を利用するために必要な手続きの流れを見ていきましょう。
成年後見利用開始手続き
成年後見制度後開始は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に審判の申立てを行いますが、任意後見と法定後見では手続きが異なります。
【任意後見の申立て手続きの流れ】
まずは任意後見人となる人を決め、後見人と任意後見契約を結びます。契約の内容は契約者同士で自由に決めることができますが、契約は必ず公証役場へ行き、法的な証明力と執行力のある公正証書で締結する必要があります。
この契約は、将来、本人の判断能力が低下に備えて財産管理を任せる契約なので、判断能力があるうちは公正証書を作成してもまだ効力は発生しません。任意後見契約を締結し、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所に任意後見監督人(後見人が契約の内容通りの仕事をしているかを監督する人)選任の申立てを行い、実際に選任されて初めて任意後見契約の効力が発生します。
■手続きの流れ
①本人が任意後見受任者を選ぶ
任意後見人受任者(任意後見人になることを引き受ける人)に自分の財産管理を任せるため、自分が信頼している人なら誰でも選ぶことができます。家族や親戚、友人、弁護士や司法書士などのほか、法人を選ぶ、複数人にする、ということも可能です。
ただし、未成年者、破産者、行方不明者、本人と訴訟関係になった人とその家族など、法的にふさわしくないと定めている人を後見人に選ぶことはできません。
②契約内容を決める
任意後見契約の内容は、法律の趣旨に反しない限り、当事者間の合意があれば任せる内容やその範囲を自由に決めることができます。
この契約で委任できるのは、財産管理に関する法律行為と介護・医療や生活面でのサポートです。具体的には、預貯金の管理、公共料金や税金などの支払、不動産の契約や売却手続き、遺産分割協議の代理、介護施設への入居や介護サービス契約の締結などがあり、これらにまつわる手続きや法律行為に関する登記の申請なども含まれます。例えば「高齢者施設への入居資金は、自宅を売却したお金を充ててほしい」といった要望を伝え、それに応じた代理権を付与することが可能です。
③公証役場で任意後見契約を結ぶ
契約内容が決まったら必要書類を揃え、本人と任意後見受任者の両者で本人の住所地の最寄りの公証役場で公正証書を作成します。公正証書でない任意後見契約は、無効となります。
④任意後見監督人選任の申立て
任意後見契約を開始するのは、本人の判断能力が低下してからです。効力の発生が必要になったタイミングで必要書類を揃え、本人の住所地の家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」をします。選任の申立てを行えるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者のみです。
⑤家庭裁判所が任意後見監督人を選任する
任意後見人を監督すべき「任意後見監督人」が選任されると、任意後見人は、契約に定められた仕事を開始することになります。
なお、任意後見契約は東京法務局で登記されます。任意後見人は、最寄りの法務局で「登記事項証明書」の交付を受けることにより、自身の代理権を第三者に証明することができます。
【法定後見で後見人などを決める手続きの流れ】
法定後見では公正証書での契約は不要です。直接、家庭裁判所に申立てを行います。
■手続きの流れ
①「後見開始の審判」を申立てる
本人の家族、四親等以内の親族などの中から申立人を決め、必要書類を揃えて、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)の選任を申立てます。
②家庭裁判所調査官による調査・親族への照会
調査官が本人や後見人候補者から、事情や意思の確認・問い合わせをして、申立ての内容について調査を行います。保佐および後見の申立ての場合は、原則として医師による本人の判断能力についての鑑定が必要です。
③後見(保佐、補助)開始の審理・審判
書類や調査結果、鑑定結果などが審査され、家庭裁判所が後見(保佐、補助)開始の審判を下すと同時に成年後見人など(保佐人、補助人)を選任します。審判が出ると、その決定内容を記載した審判書が申立人と後見人に送付されます。
④後見(保佐、補助)開始の審判確定と登記
審判書が送付されて2週間以内に不服申立てがなければ、後見(保佐、補助)開始の審判の法的な効力が確定し、東京法務局に審判内容が登記されます。
成年後見人はこうした手続きを経て確定します。次回は、後見人が不動産を売却する方法について解説します。