不動産売却のコツ2020.12.10
土砂災害・洪水・津波のリスクがある不動産売却の注意点とは?
毎年のように自然災害が発生する日本では、不動産を売却しようと思っても、土砂災害・洪水・津波などの危険が予測されるエリアはどうしても敬遠されがちです。
こうした被害が出やすい地域の土地や家は、どうすればスムーズに売却できるのでしょうか。
売却活動において必要な工夫や注意点について説明します。
売れにくいエリアの物件売却は「買取」で解決
自然災害のリスクは不動産売却にとってマイナス要因。買主は少しでも安全な地域を選びたいと考えるため、被害を受けやすいエリアの土地や家はどうしても売れにくいのが現状です。
しかし売却できない、ということはありません。
災害リスクのある物件の活用に長けた専門性の高い不動産会社であれば、直接購入してくれる可能性があります。
土砂災害のリスクが高い家・土地とは
土砂災害とは、豪雨や地震により急傾斜地に土石流や地滑り、崖崩れなどが起こること。このリスクが高いエリアは住民の命に危険が及ぶ恐れがあるため、土砂災害警戒区域などに指定されており、何らかの制限が設けられたりしています。
土砂災害の危険がある家・土地には、どのような制限があるのか具体的にみていきましょう。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)
土砂災害の危険があるエリアは、土砂災害防止法に基づき2段階で区域が指定されています。その一つが、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)です。
イエローゾーンに指定された土地に、特別な建築制限はありません。ただ、安全だとは言い切れないエリアのため、市町村が作成するハザードマップでイエローゾーンであると表示され、災害時の避難場所などが定められています。
不動産取引の際、不動産会社は重要事項説明でイエローゾーンに指定されていることを告知する義務があります。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)
もう一つの指定区域が、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)です。
レッドゾーンはイエローゾーンよりも危険度が高く、利用に関して様々な制限が設けられています。
宅地の売却には都道府県知事の許可が必要です。崖の崩落を防ぐ補強や建物を強固にするなど、想定される災害に耐えられるような対策を行わないと許可が下りないこともあり、その対策に費用がかかります。
また、危険が迫っている状況になれば、都道府県知事が区域外への移転を勧告することがあります。
イエローゾーン同様、こちらも重要事項説明の際にはレッドゾーンに指定されていることを告知しなければなりません。
造成宅地防災区域
造成宅地防災区域は、宅地造成等規制法で指定されたエリアです。造成された宅地のうち、地震などが原因で地盤や地層が滑動し、災害が発生する恐れのある区域を指します。自然の傾斜地を切り崩した宅地のほか、人工的に作られた崖地なども該当します。
この区域内の宅地の所有者は、擁壁の設置など災害防止のための必要な措置を講じるよう、都道府県知事から求められることがあります。
宅地建物取引業者は、造成宅地防災区域に指定されていることを重要事項として説明しなければいけません。
近くに崖がある家・土地
崖に近い家は、崖の崩落により土砂が流れ込む危険性があります。
積み上げた土が崩れずに安定を保てる安息角という角度があり、その角度は計算上30度とされています(土地の条件・土質により違いがあります)。崖の下に建つ家は、少なくとも崖の高さの2倍以上の距離が離れている必要があります。
万が一、崖が崩落しても、土砂の流入から居住者の安全性を確保するためです。
洪水のリスクが高い家・土地とは
洪水の危険があるエリアは、土砂災害のような法的なエリア指定は行われていませんが、2020年8月28日から水害ハザードマップでの所在地の確認が、重要事項説明で義務付けられています。
過去に洪水があったエリアでは、再び水害が発生する可能性が多分にあります。過去に床下・床上浸水の被害があった事実を隠すと、売却後にトラブルに発展しかねないため、売却の際に重要事項説明で被害の告知をするのが一般的です。
津波のリスクが高い家・土地とは
津波の危険が予測されるエリアは、津波防災地域づくりに関する法律に基づいて、都道府県知事が津波災害警戒区域に指定します。
指定の対象となるのは、津波による大きな被害が想定され、住民の生命・身体に危害が生ずる可能性が高いエリア。災害を防止するために避難場所や避難経路の確保など、警戒避難体制を特に整備すべき区域とされています。
津波災害警戒区域(オレンジゾーン)は、建築の制限は特にありません。
津波災害特別警戒区域(レッドゾーン)は、津波による浸水が想定される基準水面以下に、リビングなど人が居住する部屋を設けることができないなど、厳しい建築制限が設けられています。
どちらも不動産取引においては、波災害警戒区域に指定されていることを重要事項として説明する義務があります。
災害リスクが高い家・土地を売却する際の注意点
自然災害のリスクがある家や土地を売却する場合、災害の種類によってはリスクについて説明しておかないと、売却後に買主から契約不適合を指摘される可能性があります。
どのような点に注意をすればよいのかは、災害リスクの種類によって異なります。具体的に解説していきましょう。
①イエローゾーンにある物件を売却する際の注意点
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、土砂災害が発生した際、避難を余儀なくされる事態があり得るエリア。売却する物件がこのエリアに該当する場合は、買主に重要事項説明でその旨を告知がする義務があります。
その物件を購入した時点で指定されていなくても、安心してはいけません。イエローゾーンは2017年3月31日に全国で487,899区域が指定されており(レッドゾーンは331,466区域)、購入後に指定された可能性もあるからです。
まずは売却活動を始める前に、所有物件がイエローゾーンやレッドゾーンに指定されていないか確認をしましょう。
イエローゾーンは指定区域外の不動産よりはリスクがあるものの、特別な建築規制はなく、売却価格も相場よりそう大きく下がることはありません。
とはいえ自然災害が多発している昨今、そうしたリスクに敏感な買主が多いことも確かです。
売却の際は避難場所や避難経路をしっかり把握し、安心して住める点を誠実に伝えるといった工夫が必要です。場合によっては、ある程度売却価格を低めに設定することも検討しましょう。
②レッドゾーンにある物件を売却する際の注意点
レッドゾーンに指定されているのは、土砂災害が発生した場合に住民の生命に著しい危害が生ずる恐れがある区域です。災害リスクが高いことから、売買契約の前段階で都道府県知事の許可が必要です。
また建て替えする場合も、起こりうる災害に耐えられる構造にしなければならないなど、建築には条件があり、費用がかさみます。
そのため買い手が見つかりにくく、売却価格は相場よりも大幅に下がります。
レッドゾーンの物件は、不動産会社が土砂災害特別警戒区域の特性を理解していないと、売却後にトラブルが発生する可能性があります。そのため売却の際は、レッドゾーンの売却実績があり、信頼できる不動産会社に仲介を依頼しましょう。
〈売却が難しければ「買取」の選択を〉
レッドゾーンに建つ家は、建築に対する規制が厳しく、危険のリスクもかなり高いため、仲介による売却は大幅に売却価格を下げてもなかなか買い手がつきません。
値下げや時間が経っても売れない場合には、買取専門の不動産会社に買取を依頼してみましょう。
買取専門の不動産会社は、建物をリフォームするなどうまく生かして再販売できるノウハウを持っています。
レッドゾーンに立地するような、市場で敬遠されがちな物件でも例外ではありません。活用さえできれば買い取ってもらえるため、仲介による売却で思うように売れない、相談してもよい返事がないという場合は、ぜひ相談してみてください。
③造成宅地防災区域にある物件を売却する際の注意点
造成宅地防災区域内では、崖崩れや土砂の流出といった災害による被害が起きないよう、造成宅地の所有者に擁壁の設置など必要な措置が求められます。
また、都道府県知事が所有者に対して是正勧告や改善命令を行うこともあります。
この域内にある物件を売却する際には、重要事項説明で告知する義務があります。説明を怠ったり説明が不十分な場合は、売却後に契約不適合による損害賠償や契約解除に至る可能性があります。
④近くに崖がある物件を売却する際の注意点
崖の近くは、地震や豪雨の災害によって崖が崩れる可能性があるため、建築規制が課せられています。規制内容は都道府県や自治体により異なるため、必ず確認しておく必要があります。
以下は「東京都建築安全条例」の例です。
『第6条第2項 高さ2メートルを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の2倍以内のところに建築物を建築し、又は建築敷地を造成する場合は、高さ2メートルを超える擁壁を設けなければならない。』
東京都では、自己敷地内に高さ2メートルを以上の擁壁を築造すれば、建築が認められることが分かります。
一般的に崖地の下に土地がある場合、崖の高さの2倍以内の範囲は何らかの規制がかけられています。自治体の規制内容によっては、この範囲の建築自体が認められないケースもあります。
売却予定の土地が条例に抵触していないか、事前にその土地を管轄する自治体の条例を確認して、規制を正しく把握しなければいけません。
こうした条例の規制対象となっている土地は、どうしても相場よりも安い売却価格になりがちです。擁壁の設置費用相当分を差し引いて販売するなど、工夫をすることでスムーズな売却につなげましょう。
⑤洪水のリスクが高い物件を売却する際の注意点
過去に洪水の被害に遭った家でも、都市部など利便性の高いエリアであれば影響はあまりなく、ほぼ相場の価格帯で売却が可能です。
なぜなら都市部においては、駅からの距離や周辺環境など、利便性の方が優先されるからです。
ただし、売却する際には次のポイントに注意しましょう。
〈洪水の被害履歴は告知が必須〉
過去に洪水が発生したエリアは再び被災する可能性があるため、売却後のトラブルを避けるためにも、重要事項説明でしっかりと告知しましょう。
特に土砂災害警戒区域などのエリアにある場合は、不動産会社で把握していますし、告知義務もあります。一方で、洪水の被害に関しては、その事実を不動産会社が知らないケースがあります。
たとえ建て替えやリフォームで洪水被害の痕跡がない状態であっても、売主は必ず事実を伝えてください。告知しないまま売却し、のちに洪水の履歴が判明すると、契約不適合として損害賠償を請求される恐れがあります。
洪水被害の告知は義務化されています。
「自分しか知らないから黙っていても大丈夫」「売却価格に影響するから」と、事実を隠蔽してはいけません。必ず重要事項説明で告知してください。
〈インスペクションの実施でトラブル回避〉
洪水被害に遭った家は、程度の差はあれ構造部にダメージを受けているものです。補修工事を行って元通りになったように見えても、建物の基礎が腐食してくる可能性があるため、注意が必要です。
売却してから家に不具合が発生してしまっては、契約不適合責任を問われて損害賠償や契約解除を求められる可能性があります。売却前に、専門家が住宅の劣化状況や欠陥の有無などを行う既存建物状況調査(インスペクション)を実施しましょう。
隠れた瑕疵を事前に発見することで、物件の安心材料になりますし、重要事項説明で買主に告知することで、後のトラブルを回避することができます。
⑥津波のリスクが高い物件を売却する際の注意点
津波災害警戒区域(オレンジゾーン)にある家は、特別な建築規制がないため売却価格にはほとんど影響しません。ほぼ相場通りに売却できると思ってよいでしょう。
ただし重要事項説明での告知義務はあります。この時、災害発生時の避難場所や避難方法についても説明しておくとベターです。
津波災害特別警戒区域(レッドゾーン)にある家は、厳しい建築制限があるために、売却価格は相場よりも大幅に下がります。それでも買い手が見つからず、売却が困難なケースは少なくありません。
仲介による売却は難しいと判断したら、買取専門の不動産会社に買い取ってもらう方法も検討しましょう。
まとめ
土砂災害や洪水、津波など、災害リスクの高い不動産は、敬遠する人が多いため、いざ売却しようとしても買い手が見つからずに苦戦する可能性があります。
特に土砂災害特別警戒区域や津波災害特別警戒区域のレッドゾーンに指定されたエリアは、厳しい建築制限もあるため、売却が長期化する事例が多くなります。
売却をスムーズに進めるためには、買取専門の不動産会社に買取を依頼するのも手です。レッドゾーンのような訳あり物件でも、豊富なノウハウで物件を活かすことができるため、買取してもらうことが可能です。
イエローゾーンの物件は特別な建築制限がないため、一般的な住宅と同様に売却が可能です。避難経路や避難場所を明示して、買主に安心してもらえるよう工夫しましょう。
自然災害の危険や被害履歴は、重要事項説明での告知義務があります。買主とのトラブルを未然に防ぐためにも、役所などで自己所有地が規制対象かどうかを把握し、事実を正確に告知して売却しましょう。
著者
札幌北店 蛸星 香奈実日々、お客様とのふれあいを通じて、新たな発見ができることを楽しみながら仕事をしています。 ご売却、ご購入に限らず、お住まいでお悩みのことがありましたら何でもご相談ください。 過去の経験や知識を活かし、お客様の希望をかなえられるよう、より良い提案をさせていただきます。どうぞ宜しくお願いいたします。
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