土地や空き家のこと2020.10.27

土地の境界トラブル、どうすればいい? 戸建て・土地売却前に知るべき事例と対策

土地や戸建て住宅を売却する際、隣地との境界が曖昧なためトラブルに発展することがあります。

境界確定を行っていなかったために、いざ土地を売却しようと調べてみたら、隣家の車庫や塀が自分の土地にはみ出していたり、その逆の状態になっていた…というケースは少なくありません。

隣地所有者と境界の認識が異なっている場合、どのように解決すれば良いのでしょう。よくある事例とともに、対処方法を解説します。

土地の境界トラブルの事例

長年良好なお付き合いをしてきたお隣と、土地の境界トラブルが原因で険悪な関係になることがあります。なぜそんなことが起こってしまうのでしょう。

①塀による境界明示は曖昧

近年は、土地の四隅などに境界標という四角い杭が打ち込まれ、境界を明示することが一般化しています。しかしひと昔前までは、塀や垣根を境界線としている人が大半でした。

曖昧な位置に作られた塀を境界としていても、日常生活には何の支障もありませんが、一方の土地が売却される段になると話は別。改めて境界を精査する必要が生じます。

敷地境界を示すものが塀のみだと、それが正確な境界線かどうかは分かりません。元々誤った位置だったり、自然災害が原因でずれている可能性もあり、トラブルの原因になることがあるのです。

〈事例/塀が境界となっていた物件でのトラブル〉

会社員のAさんは、祖父の代から住んでいた自宅を売却することになり、敷地境界を確定する必要が出てきました。

隣家と自宅はコンクリートブロック塀で仕切られています。父親からは、「塀は当家が造ったもので、境界は塀の外面だ」と聞かされていたため、隣家の土地とブロック塀が接する面が敷地境界線だと認識していました。

ところが隣地所有者のBさんに確認したところ、「塀は両家が共同出資して造ったものであり、敷地境界線は塀の中心だ」と主張してきたのです。

これらの事実を裏付ける書類は両家のどちらにも残っておらず、境界が確定しないまま時間だけが過ぎてしまいました。

②境界標を勝手に一時撤去

土地には、永続性のある素材で境界標を設置することが前提ですが、下水道工事や外構工事などで、どうしても一時的に境界標を移動させることがあります。

この際、隣地の所有者の立会いの下で現況の境界標を記録し、再び両者立会いで復元すれば問題は生じません。

ところが、施工業者によっては正しい位置に戻さないケースもあります。

明らかに境界標を移動させた跡があると、境界標そのものの信ぴょう性が損なわれ、トラブルに発展することがあるため注意が必要です。

③境界標を移設していなかった

古くから隣家同士の仲が良く、合意によって敷地境界線を変更したにもかかわらず、境界標を移動しなかったためにトラブルが発生することもあります。

〈事例/境界標の移設に関するトラブル〉

農業従事者のCさんと隣家のDさんは縁戚関係にあります。両家の間には御影石に刻まれた境界標があり、土地の境界は明確になっているはずでした。

ところがDさんが土地を売却するため土地家屋調査士に調査を依頼したところ、大きな問題があることが分かりました。地積測量図を基に境界を押さえていくと、実際の境界線は、Cさん宅側になんと約5メートルも食い込んでいるというのです。

両家の年長者に聞いたところ、次のような証言が得られました。

CさんとDさんの父親は従兄弟で、Cさんの父親が株の投資で失敗してDさんに資金援助を請い、その見返りに土地を譲ったのではないか、というのです。

しかし、判明したのは50年ほど前に分筆と合筆をしていたという事実だけで、その経緯を裏付ける書類は一切ありません。認識よりも敷地が減少することを知ったCさんは、当然ながら納得がいかず、「敷地境界線は境界標が示す通りである」と強く主張して訴訟に発展。境界確定は、裁判にまで持ち込まれることになりました。

このように、土地の境界は当人同士が納得をしていればいいというものではありません。世代交代した後世の人が困らないよう、境界の変更が生じた場合は、同時に境界標を移設させることが大原則なのです。

④隣地所有者が納得しない

登記済の地積測量図があり、その通りに境界標が設置されているにもかかわらず、境界確定に隣地所有者が納得しないケースがあります。

〈事例/隣地所有者が境界に納得しないトラブル〉

隣地所有者のEさんは、古い測量図を持ち出してきて、これが敷地境界線の根拠だと主張してきました。

しかし現況測量図は、相手方が一方的に作成した図面にすぎず、敷地境界の根拠にはなりません。

また隣地所有者のFさんの場合は、登記上よりも敷地境界確定後の方が自己所有地の面積が減少するとして、土地の境界に対して異議を唱えてきました。

さらに、きちんと施工された境界標があるにもかかわらず、「一方的に設置された境界標であり、無効」との主張を繰り返したのです。

登記や境界標など、客観的データが揃っているから安心と思っていても、中には相手の思い込みからトラブルに発展するケースもあります。

⑤建物が越境していた

越境とは、建物の一部や塀、庭木などの所有物が、敷地境界線を越えて隣地へ侵入してしまっていることをいいます。

敷地境界線については双方が納得したものの、境界線の確定により建物の一部が越境していたことが判明し、トラブルに発展することがあります。

建物や塀が隣地にはみ出している場合だけでなく、屋根や雨どいなど、敷地の上空を占有していることも越境に当たります。

いずれにしても、土地所有者に無断で越境することはできませんし、たとえ故意でなくても、越境していれば解消する義務が生じます。

「屋根くらいは仕方ない」と思われがちですが、実は上空を建物で占有された土地は、売却するうえで大きな負の遺産となります。なぜなら、占有された箇所は建築敷地に含めることができず、建物を新築する際に、それだけ建築可能な面積が減ってしまうという実害が発生するからです。

土地所有者は、隣地所有者に越境部分のすみやかな撤去を求めることになりますが、屋根などの場合はそう簡単に撤去できません。そのため、解決までにはかなりの時間が必要になります。

⑥所有地が接道していなかった

位置指定道路(私道)との接道は、見た目だけでは確かなことが分かりません。公図や道路位置指定図で、しっかりと道路境界を判別する必要がある点に注意しましょう。

〈事例/未接道のトラブル〉

会社員のGさんは、かつて祖父が所有していた農地を整地して新居を建てることにしました。

所有地の前には10年前に造られた私道(位置指定道路)があるので、これに接道した敷地として建築確認申請をするつもりでした。

ところが、建築を依頼したハウスメーカーが調査すると、当該敷地は位置指定道路との間に5センチメートルの隙間があり、実際には接道していないことが分かったのです。

しかも、とある開発業者が位置指定道路を築造した際、隣接地所有者であったGさんの祖父に同意を求めたものの頑なに拒否されたため、業者がやむなく5センチメートル幅の敷地を分筆したことが判明。土地が接道していない経緯を知りました。

Gさんは、分筆された敷地の買取を求めましたが、提示された価格は相場の十倍以上だったため、やむなく新築計画を断念することになりました。

⑦所有者がそろわない

境界確定は、土地所有者全員の合意が原則です。

土地の境界確定に大きな問題を抱えていない限り、隣地の所有者が1人の場合はスムーズに進められますが、複数の人が共同で所有している場合は、様々な苦労を伴うことがあります。

例えば隣地の相続手続きが完了していなかったり、所有者が皆遠方に住んでいる場合だと、交渉だけで時間と経費を費やすことになるからです。

 

土地の境界トラブルの解決法

土地の境界を巡るトラブルは、基本的に当該地所有者と隣地所有者の話し合いによって解決を図ることになります。

しかし、曖昧な記憶や一方的な思い込みを元に話し合ったところで、問題は解消しません。トラブルの解決には、どのような準備や方法が必要なのでしょうか。

①隣接地の権利関係を調査する

まずは隣地の所有者を正確に把握することが基本です。

隣接する土地の境界線について、双方の所有者が合意した時に取り交わす「筆界確認書」を作成する際には、隣家の居住者ではなく、その土地の所有者が対象になります。そのため法務局で全部事項証明書を入手し、所有者を正しく把握しましょう。

②地積測量図を確認する

地積測量図は、土地の面積や形状、境界標の位置などが記載された公的な図面です。登記の際などに添付され、法務局に保管されており、客観的資料として活用できます。

ただし登記申請の必要書類となったのは昭和35年から。制度が発足した当時は測量精度が低かったため、誤差が生じるケースは珍しくありません。

そのため正確な資料として訴訟にも耐えうるものは、平成18年の座標値の記載が義務化されて以降のものです。

さらに平成20年以降は、世界測地系データという世界共通の測定方法で図面が作成されており、たとえ工事などで境界標が紛失したりずれたとしても、極めて高い精度で再現することができます。

③地積測量図と境界標を照合する

近年の地積測量図の精度が高いといっても、図面だけで隣地の所有者に土地の境界を納得させることはできません。

実際にその地積測量図通りに境界標が存在していれば、土地の境界を確認することが可能になります。

不動産登記規則第77条では「現地に境界標があるときは地積測量図に記録しなければならない」と定めており、境界標は石、コンクリート、合成樹脂や錆びない鋼製など、固くて永続性のある材質を用いることが定義づけられています。

木杭や中空のプラスチック杭は耐久性に欠けるため、境界標としては認められません。

堅固な境界標が現地に存在し、なおかつ地積測量図と一致することで、はじめて敷地境界線として説得力を持つのです。

④事前に境界標を確認しておく

土地の境界立会いにぶっつけ本番で臨むのは避けましょう。

境界確定の必要性が生じた段階で、地積測量図どおりに境界標が存在しているかどうかを、事前に確認しておく必要があります。

もし相違が生じていた場合には土地家屋調査士と相談をし、その理由をしっかりと押さえたうえで、隣地所有者との協議に臨みましょう。こうすることでトラブルを未然に防ぐことができます。

⑤筆界確認書を作成する

立会いで境界が確定したら、土地家屋調査士が作成した「筆界確認書」を2通用意して、当該土地所有者と隣地所有者が記名、捺印。お互いにこれを保管します。

ここに至れば土地の境界トラブルは、無事に解決したことになります。

⑥日頃のコミュニケーションも大事

土地の境界トラブルの中には、境界確定の確かな証拠が揃っているにも関わらず、隣地の土地所有者が根拠のない問題点を指摘して、いつまでも確定に同意しないことがあります。

境界標に正当性があれば訴訟で解決する方法もありますが、そこに至るまでに膨大な手間と時間を要するため、結果として大きな不利益を被ることになります。

こうしたケースの多くは、日頃のコミュニケーション不足にも一因があります。感情的な対立が土地売却の足かせにならないよう、普段から良好な関係を築いておくことが大切です。

筆界特定制度で筆界トラブルが解決できる

筆界のトラブルを解決する方法の一つに、筆界特定制度があります。

これは時間のかかる裁判ではなく、法務局の手続きによって筆界トラブルの解決を図る制度です。

具体的な制度の内容をみていきましょう。

①筆界調査委員の調査

土地所有者が筆界特定制度の活用を申請すると、土地家屋調査士や弁護士などによって構成された筆界調査委員が調査を進めます。

ここで取りまとめられた調査結果や見解に基づき、最終的には法務局の特定筆界調査官が筆界を特定します。

筆界調査委員は、法務局や自治体に保管されている調査対象の筆界に関する資料を使って実地調査や測量調査などを行うほか、当事者からのヒアリングを経て、フェアに解決する道を探ります。

②裁判よりも早く解決できる

筆界特定制度が始まったのは平成18年。それ以前は裁判で筆界トラブルの解決を図っていましたが、裁判はどんなに小さな土地の争いでも判決が出るまで何年もかかり、費用負担も大きなものでした。

それに比べ、筆界特定制度を利用すると、申請から解決までの平均的な所要日数は10カ月から1年程度。裁判に比べると格段に早い解決が図れるのです。

③ただし所有権の解決にはならない

筆界特定制度の目的は筆界を確定させることであり、土地の所有権の範囲を特定することはできません。

トラブルの争点が所有権と筆界の食い違いから発生している所有権界争いの場合は、この制度で解決することはできません。

まとめ

日常生活の中では、隣地との境界を意識することも、問題になることもありません。

しかしお隣さんとの境界が曖昧だったばかりに、いざ土地を売却しようと調べてみると大きな問題があることが発覚。トラブルに発展することが多々あります。

土地の売却は、いったん進めると待ったなしの状況になります。

そのため境界トラブルに手を焼いている場合ではないと、不本意ながら相手の言い分を聞き早期解決を図ろうとしてしまいがちです。

つまり、土地の境界確定を売却直前に実施すると、土地所有者にとって不利になる可能性が高いのです。

今現在、自己所有地の境界に不安がある場合は、土地の売却を考え始めた時点でできるだけ早く解決に動くべき。不本意な妥協をしなくて済むよう、腰を据えてじっくり取り組みましょう。

土地の売却予定がない方も、一度、地積測量図と自宅の境界標が一致していることを確認してみることをお勧めします。

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土地の境界トラブル、どうすればいい? 戸建て・土地売却前に知るべき事例と対策

石狩店 古木 篤広過去の経験や知識を活かして、お客様のお悩みや不安を解消する、最善と思われるご提案をさせていただきます。 お住替えや不動産売却などのお取引を通じて皆様のお役に立てるよう頑張ります。 不動産に関するご相談お待ちしております。

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