税金のこと2021.02.11

不動産売却で損失が発生。税金を軽減する譲渡損失の繰越控除の特例とは?

※コラム内容は掲載当時の最新情報となり、現在改正されている場合があります

不動産売却で利益が出るとその利益は譲渡所得となり、額に応じて課税されますが、逆に損をしてしまうこともあります。

譲渡損失にはもちろん課税されませんが、それだけでなく、一定の要件を満たせば他の所得と相殺して税金を減らしたり、翌年以降の所得に繰り越して控除できることをご存知でしょうか。

今回の記事では、不動産売却で損した分を税金で取り戻せる特例について具体的に解説していきます。

譲渡損失とは

そもそも譲渡損失とはどんなものでしょうか。

不動産売却で利益が得られた場合は、その利益額「譲渡所得」を計算して、確定申告をしなければなりません。譲渡所得に課税される金額は、以下の式で計算します。

【課税譲渡所得=不動産の売却価格−取得費−譲渡費用−特別控除】

上記の「取得費」は、不動産購入時の価格や取得にかかった費用を指します。

例えば、3,000万円で取得した不動産を4,000万円で売却すると、課税譲渡所得は1,000万円。この額に所得税と住民税が課せられます。
もし3,000万円で取得した不動産を2,000万円で売却した場合は、逆に1,000万円の損失が発生します。

日本では新築物件を求める人が多いため、中古物件が元の価格以上に高く売れる可能性はかなり低いのが実情です。多くの場合で、売却時に譲渡損失が発生します。

土地や建物の譲渡損失は、通常は他の所得と合算できなければ、翌年以降に繰り越すこともできませんが、一定の要件を満たすことで合算が可能になる特例を利用できます。

譲渡損失が発生した時に利用できる特例

譲渡損失が発生した時に利用できる特例とは、どのようなものでしょうか。

所得税と住民税が軽減される

特例が適用されると、所得税と住民税が軽減できます。

所得税や住民税は、給与所得などその年の個人の所得の合計額によって算出されます。
通常は、「土地や建物の譲渡所得」で赤字が出たからといって、給与所得などの所得に組み込むことはできませんが、特例の適用を受けると損失を合算できるようになるのです。

これを損益通算と呼びます。

例えば、ある年に「土地や建物の譲渡所得」で1,000万円の譲渡損失が発生したとします。その年の給与所得が400万円であれば、そこから譲渡損失の1,000万円を引くので所得はマイナスとなり、課税されません。

譲渡損失の繰越控除

特例が適用されると、さらに「控除してもまだ赤字が残った場合、翌年以降に繰り越す」こともできるようになります。

前述と同じケースの場合、給与所得400万円から譲渡損失の1,000万円を控除後、なお600万円分の損失が残ります。この余りは、翌年も損益通算可能なのです。

これを繰越控除といい、特例の適用を受けた場合は「翌年以降3年間」繰り越して所得から控除できます。この特例は、譲渡損失が出た年の翌年から最長3年間が対象となるので、最長4年間に渡って損益通算できます。

買い替えが目的で売却した場合

ここからは、特例の適用要件について詳しくみていきます。
譲渡損失に関する特例は2つのタイプがあり、一つが「買い替え目的で売却する場合」に利用できる特例です。

この特例を「マイホームの買換えの場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」といいます。

この特例のおもな適用要件は以下の通りです。

1.売却する不動産がマイホーム(自己居住用の建物)であること
2.売却した不動産が取得から5年超の物件であること
3.売却時点で、当該不動産が空き家の場合は、空き家になってから3年を経過する日の属する年内であること
4.新居への入居予定が1年以内であること
5.買い替え資産の登記簿面積が50㎡以上であること
6.繰越控除に関しては合計所得が3,000万円を超える場合、その年の控除を受けることができない
7.特例の適用を受けられるのは売却資産の土地の面積500㎡以下の部分のみ

重要なポイントは、「取得から5年超経過したマイホームの買い替え」であること。細かなルールについては、国税庁のサイトなどで確認しましょう。

買い替え以外が目的の売却の場合

もう一つが、買い替え目的ではない時にも利用できる「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」です。

買い替えなくても、実家や賃貸住宅に引っ越す場合に利用できる特例だといえるでしょう。

この特例の適用要件は、所有期間5年超のマイホームで、合計所得が3,000万円以下の年だけという部分は、買い替え目的の場合と同じで、異なるのは以下の部分です。

1.売却した不動産について、売却の前日に住宅ローンの残債がある
2.損益通算できる譲渡損失は、譲渡損失の額か住宅ローン残債から売却額を差し引いた額のうち、いずれか少ない金額

上記「2」について、例えば2,000万円で物件を購入し、住宅ローンの残債が1,500万円ある状態で、1,000万円で売却した場合を想定してみましょう。(ここでは分かりやすくするため、譲渡費用などは考慮しないで計算します)

譲渡損失額は、1,000万円−2,000万円=−1,000万円となります。

一方、住宅ローンの残債から売却額を差し引くと、1,500万円−1,000万円=500万円です。

損益通算できる額は上記の内少ない額となるため、後者の500万円が採用されます。

この特例で重要なのは、「住宅ローン残債の有無や額」です。

譲渡損失の特例を受けた時の課税対象の計算方法

次に、以下の条件で売却したケースを想定し、具体的な計算方法を解説します。

・6,000万円でマンションを購入
・10年後に3,850万円で買い替え目的で売却
・マンションの譲渡費用は350万円
・実際には建物について減価償却分を差し引く必要があるがここでは考慮しない

譲渡損失を計算する

まずは譲渡損失を計算します。冒頭でお伝えした通り、譲渡所得を求める計算式は以下の通りです。

【課税譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用−特別控除】

先ほどのケースを当てはめると、計算は以下のようになります。

3,500万円(売却価格)−6,000万円(取得費)−350万円(譲渡費用)=−2,850万円

この物件を売却した時の譲渡損失は、2,850万円だということが分かります。

買い替えの時に利用できる譲渡損失の繰越控除

このケースは買い替えのための売却なので、「マイホームの買換えの場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」の適用が受けられます。

適用されれば譲渡損失が生じた年に損益通算でき、さらに譲渡損失の額に余りがある場合には翌年から3年間まで繰越控除が可能です。

仮に売主の給与所得が500万円だった場合の損益通算と繰越控除をみてみましょう。

売却した年/500−2,850=−2,350万円 →課税なし
2年目/500−2,350=−1,850万円 →課税なし
3年目/500−1,850=−1,350万円 →課税なし
4年目/500−1,350=−850万円 →課税なし
5年目/繰越控除できない →給与所得500万円に課税される

給与所得500万円に対する所得税と住民税は、一般的に30~35万円程度なので、この額が4年間満額還付を受けられると考えると、かなりの節税効果です。

TAXの積み木と電卓とお金

特例を受けるには確定申告が必要

不動産で売却益が出た場合は、確定申告をしなければなりませんが、譲渡損失の場合はその義務はありません。

とはいえ、確定申告しない限り、譲渡損失の特例の適用は受けられません。必ず特例の適用要件を確認して確定申告するようにしましょう。

「売却した年」の確定申告が必要

譲渡損失の特例の適用を受けるには、不動産を売却して損失が生じた年に確定申告をする必要があります。さらに、翌年以降に繰越控除を受けるためには、それぞれの年にも確定申告をしなければなりません。

なお、確定申告は、申告する年の翌年2月1日~3月15日の間に税務署などで行います。所得税を申告すれば、住民税も自動で計算されます。

平日に税務署に行くのが大変な人も、今はオンライン上でも確定申告(e-Tax)できますので、確認しておきましょう。

確定申告時に必要な書類

必要な書類は、適用を受ける特例のタイプによって異なります。

【自宅を売却する場合】
●2タイプの特例に共通して必要な書類
・確定申告書
・各特例に関する金額の明細書(確定申告付表)
・各特例に関する金額の計算書
・マイホームであることを証明する書類(登記事項証明書など)
・5年超居住していることを証明する書類(登記事項証明書など)

●買い換え不動産に関する書類
買い換え不動産に関して購入年月日や面積の分かる書類(登記事項証明書など)

【自宅以外の不動産を売却する場合】
●2タイプの特例に共通して必要な書類
・確定申告書
・各特例に関する金額の明細書(確定申告付表)
・各特例に関する金額の計算書
・マイホームであることを証明する書類
・5年超居住していることを証明する書類

●売却不動産に関する書類
譲渡資産に関する住宅ローンの残高証明書

譲渡損失を出さないためにやるべきこと

譲渡損失の特例の適用を受けられれば、その分大きな額の税金の還付を受けられる可能性があります。ですが、できれば譲渡損失は避けたいものです。

ここでは、譲渡損失を出さないために、高額で不動産を売却する方法について解説しましょう。

複数社から見積もりを取る

不動産を売却する時は、複数社から見積もりを取るのが鉄則です。それには次のような理由があります。

・複数の不動産会社から査定額の提示を受けることで、相場観を養える
・複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことで競争原理が働き、高額売却を実現しやすくなる

査定や媒介契約自体は無料なので、必ず複数社に見積もりを依頼しましょう。なお、複数の不動産会社と媒介契約を結ぶには、一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約の3つのタイプのうち、「一般媒介契約」を選ぶ必要があります。

売りたい物件を得意とする不動産会社に依頼する

複数の見積もりを取った後、売却の依頼先は「売りたい物件を得意とする不動産会社」を選ぶようにしましょう。

それは、不動産会社にもそれぞれ得意分野があるからです。
・戸建住宅とマンション
・シングルタイプとファミリータイプ
・広範囲にネットワークを持つ不動産会社と特定エリアに強みのある不動産会社

自分が売りたい物件のタイプを得意としている不動産会社の方が、高額での売却が実現しやすくなるでしょう。

なお、エリアに関しては、例えば「広範囲にネットワークを持つ大手不動産会社」と「特定のエリアに強みを持つ地元の不動産会社」両方と媒介契約を結ぶことで、より多くの方を対象にできる可能性があります。

まとめ

今回は、不動産売却時の譲渡損失について解説しました。

所有期間5年超のマイホームを売却して譲渡損失が発生した場合、一定の要件を満たしていれば、損益通算や繰越控除の特例の適用を受けることができます。

損失が出た時は確定申告する義務はありませんが、申告することで税金が大幅に軽減される可能性があるため、特例の適用を受けられるかどうか必ず確認するようにしましょう。

また、特例の適用を受けることで損を取り戻せるとはいえ、そもそも譲渡損失が出ないに越したことはありません。

複数の不動産会社から相見積もりを取る、その売却物件を得意とする不動産会社に依頼するなど工夫して、できるだけ高額での売却を目指しましょう。

北章宅建では、売却など不動産に関するご相談を何でもお受けしています。お困りのこと、ご相談ごとがありましたら、ぜひお電話ください。

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著者
不動産売却で損失が発生。税金を軽減する譲渡損失の繰越控除の特例とは?

札幌手稲店 野口 祥子

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