相続や名義のこと2021.02.02

内縁関係で遺産相続できる?遺言の扱いや関連手続き・法律を解説

※コラム内容は掲載当時の最新情報となり、現在改正されている場合があります

事実婚などの内縁関係にある男女は、社会的には結婚している夫婦と同様に扱われます。しかし相続に関しては厳格な区別があり、法律上の婚姻関係がない限りパートナーに相続権はありません。法定相続人になれるのは、婚姻届を出している配偶者だけです。

苦楽を共にしてきたバートナーに財産を遺すことができるよう、万が一に備えて、遺産相続の手法をしっかり把握しておきましょう。この記事では、内縁の妻(夫)に遺産を相続する方法や関連する法律について解説します。

婚姻・内縁の妻(夫)の違いと判断基準

相続において、婚姻関係と内縁関係では、どのような違いがあるのか解説します。

家について考える夫婦

 

「婚姻関係」と「内縁関係」の違いと相続の関係

民法では「婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生じる(739条)」と定められています。婚姻届を出すことで承認される、法律上正式な夫婦を婚姻関係といいます。

内縁関係は、実質的には夫婦として暮らしていても、婚姻届は出していない関係を指します。重要なのは、婚姻の意思が前提にあること。一般的には、3年程度の同居期間があれば、内縁関係と認められます。

内縁関係と認められるには、ただ単に同棲をしているだけでなく、次のような要件に該当している必要があります。

・共同生活を営んでいる
・社会的に夫婦と認められている
・結婚式を挙げた
・認知した子どもがいる

婚姻関係と内縁関係の大きな違いは、婚姻届けを出しているか否かですが、法的には一定の範囲内で同等に扱われます。内縁関係であっても婚姻関係と同等の義務や責任が伴うものに、以下のようなものがあります。

・貞操義務(不倫をしない)
・日常生活に関する連帯責任(民法761条)
・扶助の義務(民法752条)
・婚姻費用の分担の義務(民法760条)
・財産分与(民法768条)

しかし、相続人になれるのは法律的に婚姻関係にある配偶者に限定されています。内縁関係では、相続人になれません。内縁とも認められない相手は、単に親密な男女関係に過ぎないため、法的に保護されることはありません。

内縁関係(事実婚)のパートナーに相続権がない理由

内縁の妻・夫は法定相続人になれないだけでなく、相続に関連する様々な権利も認められていません。認められていない権利を具体的にみていきましょう。

ポイント①「遺留分」がない

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に最低限保証される遺産取得分です。遺言によって、本来よりも少ない相続分しか与えられなかった相続人が請求によって財産を取り戻すことができます。ただし請求できるのは、配偶者の他、子ども、孫などの「直系卑属」と親、祖父母などの「直系尊属」に限られます。

被相続人に直系卑属と直系尊属がいない場合、その兄弟姉妹が相続人になることがありますが、遺留分はありませんし、そもそも相続人ではない内縁の妻・夫にも遺留分はありません。

ポイント②「寄与分」がない

寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が、被相続人の財産の増加や維持に貢献したり、療養看護に努めてきたなど、被相続人に貢献をしてきた相続人に対して、こうした貢献を遺産分割の時に反映させる制度です。

寄与分が認められた相続人は、寄与分が認められた分だけ、ほかの相続人より多く財産を相続することができます。ただしこの寄与分を主張できるのは相続人のみで、内縁の妻・夫に寄与分はありません。

ポイント③「特別寄与料」がない

特別寄与料とは、相続人でない親族(配偶者、6親等内の血族、3親等以内の姻族)が、被相続人に対して無償で療養看護や介護などの労務を提供したことについて、「特別寄与料」の支払いを相続人に請求できる制度です。

これは、従来の制度では寄与分が相続人だけにしか認められていなかったため、特別の寄与をした子の配偶者や相続権のない兄弟姉妹などを保護するため、民法改正により新しくできた制度。2019年7月1日以降に開始した相続であれば、特別寄与料が請求可能です。

ただし特別寄与料の請求が認められるのは、被相続人の「親族」だけ。たとえ内縁の妻・夫が、被相続人の療養看護を無償でしていたとしても、親族ではないので、特別寄与料の請求は認められません。

内縁関係(事実婚)のパートナーが遺産を受け取る方法

内縁の妻・夫は相続人になれませんが、遺産を受け取る方法はあります。それは次の6つです。

①「遺言書」を作成し遺贈する

法的に有効な遺言書を作成することで、遺贈により内縁の妻・夫に財産を残すことができます。

遺贈とは、遺言によって、自らの財産を相続人以外の人物に無償で譲与することをいいます。遺贈は相続ではないため誰に対してでも行うことができ、かつ法定相続よりも優先されるため、確実に財産を渡すことが可能です。

遺贈は遺言者の死亡時から効力を生じます。そのため受遺者となるはずであった人が、被相続人よりも先に亡くなった場合には、受遺者となるはずであった人の子が代襲して受遺者となることはできません。

また、たとえ被相続人が「全財産を内縁の妻に譲る」と遺言を残していても、本来の相続人には、法律上保証された一定割合の相続財産を受け取る遺留分という権利があります。そのため遺贈をしたとしても遺留分の遺産は相続人に渡り、基本的に全額受け取ることはないと考えた方がいいでしょう。

②「生前贈与」する

生前に贈与を受けることによって、内縁の妻・夫でも財産を受け取ることができます。

しかし、生前贈与を受けた財産には贈与税がかかります。もともと贈与税は、相続税逃れを防止する目的で創設されたため、相続税よりも高い税率が設定されています。このため、贈与税に配慮しないと、贈与を受けた側が大きな負担を強いられることになります。

贈与税を軽減する方法として、暦年贈与を活用する方法があります。贈与税には基礎控除があり、毎年110万円までは贈与税がかかりません。
例えば、毎年110万円ずつ20年間に渡って生前贈与をすれば、合計2200万円もの金額を、贈与税をかけずに贈与することができます。このような贈与を「暦年贈与」といいます。

しかし、毎年の贈与が必ずしも暦年贈与として扱われるわけではありません。
例えば、最初に2,200万円の贈与をする約束をして、毎年110万円ずつ20年間にわたって履行したような場合は、複数の年に分割して履行された一つの贈与「連年贈与」と見なされ、約束をした年または最初の履行があった年にまとめて贈与税が課税されます。

このため、税務署に「暦年贈与」と認めてもらうために、次のような対策が有効です。

・贈与の都度、贈与契約書を作成する(確定日付つき)
・受贈者が管理している受贈者名義の口座に振り込む
・登記や登録の制度のある財産については名義を変更する
・ 毎年違う時期に、異なる金額を贈与することで、当初に約束のない単発の贈与であることを示す
・あえて110万円をわずかに超える額を贈与して、贈与税申告をすることで納税をした実績を残す

また、遺留分を持つ相続人がいる場合は、相続人の将来の生活設計を配慮して、内縁の妻・夫への贈与額を決めた方が良いでしょう。

詳しくは税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

③「特別縁故者」の財産分与を受ける

遺言書がなく、被相続人に法定相続人が存在しない場合、次のような要件を満たせば「特別縁故者」として遺産を受け取れる可能性があります。

・被相続人と生計を同じくしていた者
・被相続人の療養看護に努めた者
・被相続人と特別の縁故があった者

特別縁故者として遺産を受け取るには、相続人の不在が確定してから3カ月以内に「特別縁故者の相続財産分与の請求」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。申し立てが認められれば、特別縁故者として遺産を受け取ることができます。

④「死因贈与」を受けとる

死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力が発生する贈与のことをいいます。財産を贈与する人と受け取る人の間で事前に約束すれば成立するため、口約束でも可能です。しかし、受贈者が内縁の妻・夫だった場合、口約束だけでは、相続人との間で揉めるのは必至。死因贈与の約束があったことを証明できないからです。

また、書面がない贈与契約は、履行が終わっていない限り贈与者が自由に解除できることが民法上定められています。このため履行の完了前であれば、法定相続人による解除が成立する可能性もあります。

⑤「生命保険金」の受取者として指定する

被相続人が加入している生命保険金に、内縁関係のパートナーを受取人として指定したものがあれば、正当な保険金として受け取ることができます。

ただし、生命保険会社や商品によって条件や対応が異なりますので、必ずしも指定できるとは限りません。加入に際しては、事前に確認しておいた方がいいでしょう。

⑥「遺族年金」を受け取る

年金法においては、「配偶者」に「事実婚関係にある者」を含むとされています。このため、内縁関係でもその実態が法律婚と同様であれば、内縁の妻・夫でも遺族年金を受給できる可能性があります。

内縁関係を証明するためには、次のような書類の提出が必要です。

・健康保険被保険者証の写し
・結婚式を挙げたことを証明する書類
・自らが喪主となって葬儀を執り行ったことを証明する書類
・住民票……同居していることを証明できる最も有効な書類

 

内縁関係のパートナーに遺産を継承する確実な方法は?

このように、内縁関係は法的に不安定な関係にあるため、パートナーの財産を継承しようとすれば、相続人から訴訟を起こされる可能性は否定できません。事前に法的な対抗手段を準備しておかないと、遺産の継承が無効になってしまうことがあります。確実に財産を継承するには、 生前贈与や遺言書といった、明確な意思表示による財産移転の方法を策定しておく方が良いでしょう。

事実婚のパートナーが遺産を受け取る際の注意点

事実婚である内縁の妻・夫が遺産を受け取れたとしても、税金面では法律婚と大きな差があります。想定外の負担が生じないよう、注意すべき点を解説しましょう。

注意点①相続税が高くなる

相続または遺贈によって財産を取得した人には相続税が課税されますが、すべての人の税率が同じわけではありません。1親等の血族以外の者が財産を取得した場合は、相続税は2割加算されます。

注意点②「配偶者控除」が適用されない

配偶者には税額軽減が適用されるため、財産を相続した場合、最低でも1億6千万円までは相続税がかからないようになっています。しかし適用されるのは法律婚の配偶者であって、事実婚には適用されません。内縁の妻・夫が受けた遺贈や特別縁故者としての財産分与には、相続税が課せられることがあります。

注意点③ 「基礎控除額」が増えない

内縁の妻・夫は法定相続人ではないので、基礎控除額として加算される「相続人の数×600万円」が適用されず、基礎控除額を増やすことができません。

このため、相続人が内縁のパートナーのみである場合は、基礎控除の額は最低の3,000万円となります。

注意点④ 「小規模宅地等の特例」が適用されない

小規模宅地等の特例とは、被相続人の住んでいた家を相続して引き続き住み続ける場合、その土地の評価額を最大で80%減額できる制度です。しかし、この特例は親族にしか適用されないため、内縁の妻・夫が遺言により土地を取得したとしても、相続税の軽減を受けることはできません。

注意点⑤「死亡保険金の非課税枠」を利用できない

死亡保険金には非課税枠があり、法定相続人1人につき500万円までは相続税がかかりません。ただし事実婚のパートナーは法定相続人ではないため、死亡保険金を取得しても非課税枠を利用することはできません 。保険金全額に対して相続税がかかります。

注意点⑥「障害者控除」を受けられない

相続人が障害者であり、相続発生時点で85歳未満の場合は、相続税の額から次の額を控除することができる、障害者控除という制度があります。

・障害者……27万円
・特別障害者……40万円
・同居特別障害者……75万円

ただし、障害者控除を使えるのは法定相続人だけなので、内縁の妻・夫が障害者であったとしても控除の適用はありません。

まとめ

様々な家族の形が認められ始めてはいますが、相続に関しては法律の壁があり、相続人になれるパートナーは婚姻届を提出した法律上の配偶者に限られます。

そのため法的な裏付けのない事実婚の場合、どんなに献身的に看護や介護をしてきたとしても、相続が受けられなかったり、各種控除や特例の適用外となるのが現実です。

事情があって内縁関係を選択したのであれば、公正証書遺言による遺贈が、最も確実に遺産を渡せる方法です。苦楽を共にしてきた関係であれば、確実に遺産をパートナーに残したいと考えるはず。ぜひ健康なうちに、確実に遺産を残す方法を検討し、不安や疑問があれば税理士などの専門家へ早めに相談しましょう。

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著者
内縁関係で遺産相続できる?遺言の扱いや関連手続き・法律を解説

札幌手稲店 野口 祥子

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