不動産売却のコツ2021.03.02
宅地建物取引士とは何か?
※コラム内容は掲載当時の最新情報となり、現在改正されている場合があります
不動産は、「衣・食・住」の一つ。生活の基盤として誰にとっても必ず必要なものですが、不動産を売買する「取引」となると、一般的にそう多くの人が経験する訳ではありません。一般の消費者が不動産取引に関する法律や取引方法をよく知らないのは、当たり前のことです。
一方、専門家である不動産会社は、不動産取引全般に関する知識や情報をふんだんに持っており、消費者との間には大きな情報格差があります。不動産会社は、消費者が知らないことをいいことに、悪いことができるともいえます。
そのため、不動産の売買や、売買・賃貸の媒介等である仲介を行う不動産会社(宅地建物取引業者、略して宅建業者[たっけんぎょうしゃ])は、宅地建物取引業法(略して宅建業法[たっけんぎょうほう])という法律によって、様々な規制がかけられています。
『この法律は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もって購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする。』 (宅地建物取引業法第1条)
この条文から分かるように、宅建業者である不動産会社には、専門家として取引に関する知識経験や調査能力を活用・発揮することが期待されると同時に、取引において消費者が損害を被ることがないようにするという社会的責任も負っています。
宅地建物取引士(略して宅建士[たっけんし])は公正な不動産取引を行うための国家資格で、宅建業者である不動産会社に必要不可欠な存在です。
宅地建物取引士にしかできない3つの業務
宅地建物取引士は、以前は「宅地建物取引主任者」という名称でしたが、宅建業法改正により2015(平成27)年度から名称変更された資格です。遡ると、資格が創設されのは1958(昭和33)と古く、当初は「宅地建物取引員」という名称でした。
実は不動産会社に勤めている人の中でも、宅地建物取引士にしかできない仕事があります。それは次の3つです。
①重要事項の説明
契約前に、その不動産に関して重要な事項を説明します。説明には専門的な知識が必要なため、宅建士の資格を持った人しかできません。
『宅地建物取引業者は、宅地もしくは建物の売買、交換もしくは貸借の相手方もしくは代理を依頼した者または宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換もしくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、または借りようとしている宅地または建物に関し、その売買、交換または貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。』(宅地建物取引業法第35条1項)
②重要事項説明書への記名押印
重要事項説明を記載した書面に間違いがないか確認し、記名・押印します。
『 第一項から第三項までの書面の交付に当たっては、宅地建物取引士は、当該書面に記名押印しなければならない。』(宅地建物取引業法第35条5項)
③契約書面への記名押印
重要事項説明が終わり、当事者双方が内容に納得すれば契約を結びます。その契約書面(37条書面)にも、宅地建物取引士の署名・捺印が必要です。
『 宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名押印させなければならない。』(宅地建物取引業法第37条3項)
宅地建物取引士に新設された3つの規定
宅地建物取引士への名称変更に伴い、宅地建物取引士に関する次の3つの規定が宅建業法に追加されました。また、業法の解釈・運用の考え方にも関連項目が追加されました。改正のポイントを見ていきましょう。
①宅地建物取引士の業務処理の原則
これまでも宅建業法では、宅地建物取引業者に対し誠実に業務を行う旨を規定していましたが、今回の改正では、宅地建物取引士そのものの公正誠実義務が規定されました。業者の原則よりも踏み込んだ詳細な規定です。
『宅地建物取引士は、宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地または建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地または建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならない。』(宅地建物取引業第15条)
なお、業法の解釈・運用の考え方(第15条関係)には「公正誠実義務について」次のようにあります。
『宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、専門的知識をもって適切な助言や重要事項の説明等を行い、消費者が安心して取引を行うことができる環境を整備することが必要がある。このため、宅地建物取引士は、常に公正な立場を保持して、業務に誠実に従事することで、紛争等を防止するとともに、宅地建物取引士が中心となって、リフォーム会社、瑕疵保険会社、金融機関等の宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携を図り、宅地及び建物の円滑な取引の遂行を図る必要があるものとする。』
②宅地建物取引士の信用失墜行為の禁止
宅地建物取引士の業務は、取引相手だけでなく、社会からも信頼されなければならないことから新設された規定です。
『宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用または品位を害するような行為をしてはならない。』(宅地建物取引業第15条の2)
業法の解釈・運用の考え方(第15条の2関係)には「信用失墜行為の禁止について」次のようにあります。
『宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として専門的知識をもって重要事項の説明等を行う責務を負っており、その業務が取引の相手方だけでなく社会からも信頼されていることから、宅地建物取引士の信用を傷つけるような行為をしてはならないものとする。宅地建物取引士の信用を傷つけるような行為とは、宅地建物取引士の職責に反し、または職責の遂行に著しく悪影響を及ぼすような行為で、宅地建物取引士としての職業倫理に反するような行為であり、職務として行われるものに限らず、職務に必ずしも直接関係しない行為や私的な行為も含まれる。』
③宅地建物取引士の知識及び能力の維持向上
宅地建物を取引する専門家として、最新の法令等の知識を身につけ、必要な実務能力を磨くよう促す規定が新設されました。
『宅地建物取引士は、宅地または建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない。』(宅地建物取引業第15条の3)
業法の解釈・運用の考え方(第15条の3関係)には「知識及び能力の維持・向上について」次のようにあります。
『宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、常に最新の法令等を的確に把握し、これに合わせて必要な実務能力を磨くとともに、知識を更新するよう努めるものとする。』
まとめ
不動産は高額で、多くの人にとって取引の機会は限られていると思います。その上、権利関係が複雑に入り組んでいるなど、取引に当たっては資格を持った専門家が仲介する必要があります。
今は、耐震問題、土壌汚染、アスベストなど、宅地建物を取り巻く様々な社会問題があり、宅地建物取引士制度が創設された当時に比べ、重要事項説明の項目も膨大かつ複雑化しています。
宅地建物取引士は、こうした業務の高度化、多様化に応える資格であり、大きな役割をしっかりと全うしていく必要があるのです。